今回は、荒川強啓デイ・キャッチ内
「メキキの聞き耳」より2011年6月30日放送分
「トヨザキ社長オススメの1冊」です。
音声は、こちらから
荒川強啓(以下、荒川):
今日は、本のメキキ・ライターの豊崎由美さんです。
こんにちは。この時間が楽しみだという人も増えて参りまして、
今回お持ち頂いたおすすめの1冊は何でしょうか?
豊崎由美(以下、豊崎):
今、ジメった暑い季節なので、カラッと笑えて肩の凝らない
ユーモアミステリーを持って参りました。
「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」奥泉光さんの本ですね。
荒川:
ええ、これはどういった内容なんでしょうか?
豊崎:
あの実はですね、このタイトルヒーロー主人公のですね、
桑潟幸一っていうのは、「モーダルな事象」っていう
長編小説に既に登場してるんですね。
その「モーダルな事象」っていうのは、
ミステリーとSFの面白みを併せ持つ傑作小説で
その時は彼(桑潟幸一)は、
大阪のしがない短大で近代文学を講じてたわけです。
で、今回それと比べると読み心地はものすごく軽いんですね。
その大阪の偏差値最低女子短大のしがない准教授だった
桑潟幸一ことクワコウが、今度は千葉の田舎のやっぱり
レベルの低いたらちね国際大学に赴任してくわけですね。
そこで3つの事件に遭遇します。
1つは自分にあてがわれた呪われているとの
いわく付き研究室で起こる怪異ですね。変わった出来事。
それからもう一つ、50万円の価値がある手紙のが盗難。
最後に、別の教授の研究室から消えた女子学生。
この3つの物語が収められた作品集になっているわけですね。
これでどうでした?いつもと違って軽いユーモアミステリーなんですけど。
荒川:
これ印象としてざっくり言うと
「坊ちゃん」の平成版かなー?と。
学園モノなんですよ。
大学が舞台となっている実に面白い個性のある女子大生たちが、
いろんな難問を解決していくということなんだけど。
豊崎:
鋭いです!!
今も荒川さんがおっしゃった通りでですね、
元々、作者の奥泉さんが「坊っちゃん」大好きな方なんですよ。
江戸っ子の坊ちゃんが松山に赴任して、
そこの生徒たちが「~なもし」「~なもし」とか
連発されてカーッとするじゃないですか?
坊ちゃんは怒り狂うんですけど、
我らがヒーローの気が弱いクワコウは、
ただただ女子大生の不可解かつ・・。
その女子大生たちていうのは、
クワコウが顧問として担当する事になった文芸部の
面々なんですよ。その文芸部の面々っていうのが、
ラノベとかBL小説とかアニメとかコスプレが大好きなんですね。
皆でワーッとかしましく喋るんですけど、
それがネット用語とか流行語とか今どきの言葉満載だから、
クワコウ半分くらい何言ってるかわからないんですよ(笑)
でも、なんか媚びるような笑みを浮かべたりとかして、
女子大生たちに翻弄されつつ、クワコウはクワコウで、
給料がうんと下がったもんだから、すごい貧乏生活を強いられる
ことになってっていう下流大学教授のね、
悲しい自虐的な日常みたいなのもすごく楽しいんですよね。
荒川:
そう。それでつまんない事件がたくさん起こるのよ。
つまんないんだけど、実にイキイキとしてる学園モノなんですね。
豊崎:
そうですね。奥泉さんも1956年生まれでいらっしゃいますから、
ご自身ね、近畿大学で研究所の教授をなさってらっしゃるので、
ちょっと耳には入ってるのかもしれないんですけど。
それにしても今時の女子大生とかの会話、しかも女子大生のオタクですよね。
オタク女子大生の会話っていうのをこんなに上手に再現できてて素晴らしいな!!
とかって思いますよね。
ただ、千葉の人怒るかもしれませんよね。
すごい物言いされてますよね、千葉!
荒川:
地域にちょっと偏りがあるかもしれないね・・。
豊崎:
千葉に対する侮蔑とも取れる発言がすごく、
クワコウが埼玉の熊谷の近くの出身ということになっているので、
埼玉と千葉ってそういう関係にあるので、
かなり攻撃する所がちょっとおかしくて。
強啓さんがご指摘してくださったみたいに、
キャラクターがまず立っているということもあるんですけど
やっぱり、さすがね純文学の作家なので、文章が素晴らしいと思うんですよ。
3ページに1回は「ブフフッ」って笑っちゃう箇所が出てくるんですけど、
それってやっぱりね、言葉のセンスですよね。
言葉のセンスとかキャッチコピーとか、あとツッコミ?
誰かが何かをやったことに対して突っ込むという形の
ツッコミの文章が素晴らしくて、文章で笑わせるのってすごく難しいんですよね。
それを奥泉さんはこの小説でフル回転でその能力を見せてくれる。
荒川:
それで、人間観察と言うんでしょうか?
実に見事ですね。
レベル、偏差値の低いという女子大が舞台なんだけど、
難問をどんどんどんどん解決していくその頭脳はすごい素晴らしいの!
豊崎:
クワコウは、下流大学准教授なんですけど、
そこで教えている子供たちは結構ね、センスいいんですよね。
ホームレス女子大生ジンジンっていうのが出てきて、
彼女が全部解決しちゃうんですよ(笑)
クワコウは、何にも解決できないの!
あ、そうなんですか?
クワコウが解決するのだと思ってました。
豊崎:
しないの!!
ただの狂言回しなの。
荒川:
それですごい臆病なの(笑)
豊崎:
なんか、駄目男ですよね。
で、結婚もしてなくてですね。
これね、きっとねシリーズ化すると思います。
すごく売れ行きもいいみたいで。
クワコウとジンジンでしょうね。
むしろジンジンシリーズになってく可能性がありますよね。
ホームレス女子大生っていうタイトルに変わるんじゃないですか?
荒川:
そのホームレス女子大生の生き様が、生活感が実に面白いの!!
たくましくて、賢くてね。暗くもなんともない。
これは暑いときにスカっと、そんな感じで宜しいでしょうか?
豊崎:
そうですね。カラッと笑って下さい!