2011年7月3日(日)ラジオ版 学問ノススメ
広瀬和生(落語愛好家・音楽誌「BURRN!」編集長) さんの回の起こし、
前回の続きになります。
前回はこちら、
「BURRN!」編集長で落語愛好家・広瀬和生が語る「落語評論はなぜ役に立たなくなったのか?」(1)
今回は、あらゆるジャンルにも共通する評論とは何か?を語られています。
音声はこちらから
広瀬
大雑把に言っていなかったんですけど、本当はいたんですよ。
この間、本棚を引っ張り出してきて「そうそう!」と思ったんですけど、
2005年ぐらいに堀井憲一郎さんが雑誌の特集で
「死んだ奴は放っておけ」というものを書いてたんですね。
今いる落語家の話を聞かないでどうするんだ!
ということを書かれていたんですよ。
今誰も、「誰を聞けばいいのか?」を教えてくれない、
誰も「誰が面白いのか?」という知識をくれない!
ということを書いてたんですね。
それに対して、吉川潮さんが
「堀井君の言っていることはおおむね正しいけれども、
一つだけ違っている、俺がいるじゃないか!!」と(笑)
それはそうなんですよ!
「落語評論はなぜ役に立たないか」といいながら、
実は役に立つ人の名前をいっぱい挙げてるわけですよ。
木村万里さんとか、吉川さんとか、堀井さん、松本さんとかね。
いるんですけど、そういう人たちは
「でも、あいつらはな・・。本当の落語を知らないからな」って
言われちゃう土壌が落語界の保守本流にあって、
その元凶は何なのか?ってところまで掘り下げたが故に
まぁタブーに振れちゃった本になっちゃったんですけど・・。(笑)
要は「立川流寄りだ!」って言われちゃうんですよ。
「今誰が面白いですか?」って聞かれると、
「立川志の輔ですね」って言うじゃないですか
「他には誰がいますか?」って言われた時に、
「古典だったら、立川談春じゃないですか?」って言った瞬間に、
「こいつは立川流だ!」って(笑)
僕は今、その本の中に書いてるんですが、
もはや今は立川流か否かなんていうのは、全く意味を持たない。
つまり僕が旬だと思っている若手は、春風亭一之輔という
これは落語協会の若手だし、真打ちで桃月庵白酒という人
古今亭一門(まあ金原亭ですけども・・。)の若手真打ちですよね。
まぁ柳家喬太郎であるとか、柳亭市馬であるとかっていう
柳家の保守本流の方たちもいるし、もっと先輩で言えば、
その師匠筋にあたる人たちね。柳家さん喬であるとかね。
だというところが今の状況なんだけれども、
でも、魅力的な人たちをあげる時には、2001-05年の間だったら
真っ先に挙げなきゃいけないのは、立川談志なんですよ!
間違いなくそうなんですよ。
何故かというと、
志ん朝師匠が亡くなったからなんですよね。
古今亭志ん朝亡き今、そして柳家小さん亡き今誰がいるんだ?
立川談志・柳家小三治、この二人。あとは一般的には、
春風亭小朝とかってことになるでしょう。
小朝さんは落語界を改革しようとして立川流の志の輔さんと
手を組んだりなんかしていたし、
立川流がなぜ一種のタブーだったのか?って言うことに関しては
まぁ長くなるんですけど・・(笑)
要は、立川談志という存在。
落語協会からの脱退して師匠を裏切るようなかたちで独立して
談志という人のキャラがですね、毒舌でなるキャラで。
「自分以外はみんな下手だ!」と断言する人なので、
「お前らみんな馬鹿だ!」「下手だ!」
「ザコは群れたがるっていうけど、お前らはザコだ!」ということを
はっきり言ってしまうキャラなので、当然敵は作るんですけど、
ただ敵は業界内とはであって、ファンは別に関係ないと思うんですが。
蒲田
敵は当然談志は多いけど、別にプロの間での話・・。
広瀬
業界内のバランスの話ですから、
別にそれは受け手には関係ない話で。
例えば、イングヴェイ・マルムスティーンが
どんなに嫌な奴だったとしてもですね、
いや、嫌な奴じゃないですよ(笑)
でも、だったとしてもですよ!
「だから、イングヴェイは下手だ」ということは
言ってはおかしいですよね。
いくら、ガンズ・アンド・ローゼスが
取材しにくくて厄介な存在であって、
「何だよ!勝手だな!」と思ったとしても、
ファンは良い音楽なり、良いコンサートなりを
味わう権利があるわけですよ。
でも、無かったことにしちゃいけないんですよね。
ガンズ・アンド・ローゼスが今トップだとしたら、
(もうトップではないですけど・・。)
でも取材出来ないんですよ、
インタビューしてくれないから。
だから、してくんないから
「いないこと」にしちゃおうっていうのは、
それは少なくとも公で音楽ジャーナリズムを
名乗るんであればあってはいけないことですよね。
蒲田
でも、それは立川談志に対してはやっていた態度なわけですね。
広瀬
そうですね。
それは、ビートルズが好きな人が
ローリング・ストーンズが存在しないかのように
言うのは間違っているじゃないですか。
でも、志ん朝が好きだから、談志が嫌いって。
好みはいろいろあるでしょう。
僕は、志ん朝師匠で落語にハマったので、
その価値観が良く分からないんですが・・。
それはさておき、置いといて。
まぁガイドをやるとすると、今誰が面白い?
「名人と言ったら立川談志と柳家小三治だろう、他には誰がいる?
集客力でいったらパルコで独演会やってんだから立川志の輔でしょう。」
これは、普通に出て来る話なんですよね。
あとは誰がいるか?ってなったら、若手で有望なのが○○、
でも、そこの部分が一番言いたくなかったのではないかと
思われる節が多々あるんですよ。
今は2011年なんで、はじめて僕の本を読んで、
「立川流ってあんなに優遇されてるじゃないか!」
ということを言う人もいるんですが、
全然優遇されてなかったという、
あの本当に無かったことになっていた。
ある方の本では
「寄席に出ていないのは、
我々の方では『土手組』といって素人なんだ」と
はっきり書かれているんですね。まぁ有名な落語家さんですけど。
つまり、立川流は素人だと。だから語るに値しない。
いくら客を集めていても、
素人が素人相手に何やっても落語界に関係ないんだというのが
基本的な認識だったんです。
それはでも、受け手には関係のない事じゃないですか!
蒲田
そりゃね、見ててドッカンドッカンいってたらOKですもんね。
広瀬
で、先ほどの話に戻るんですけど。
「寄席に行けば面白いよ!必ず誰かいる」
「出ねーじゃねぇか、立川流!!」っていう話なんですよね(笑)
でも、寄席に出ないのは素人だと思っていたら、
触れる必要はないのかもしれない。
でも流石にね!志の輔さんが1ヶ月もパルコでやるようになったら、
それ無視は出来ないじゃないですか!
でも無視したいんですよ、本音はね。そういう人たちはですよ。
で、何をするかといったら全部無視しちゃうんですよね。
「誰が良い」っていうのを言わなきゃいいんですよ、
「みんな良い子!」「みんなすごいよー!」
「みんなそれぞれ個性があって、みんな優等生。
全員で1着を取りましょう」
戦後民主主義的なそういう発想で誰が面白いなんてことは
言うと波風が立つから、やめましょうという雰囲気があったが故に、
堀井さんが言ってるように
「今誰が面白か?誰も言ってくれない」状況が2005年にありました。
「なんで、そんなんだろう?」と僕は思ったし、
その頃みんなが思ってて、そういう本を書きました。
そういう本っていうのは、
最初に「この落語家を聴け」(2008年)に出した時に
色んな方から取材を受けたんですよ。
新聞とか出版社の方もそうなんですけども。
「これは極めて普通のことなのに、
誰もやってなかったのは何故なんでしょう?」と。
これはっていうのは「この落語家を聴け」っていうガイドですよね。
名盤ガイドみたいなものを。今でいうと人気の人は誰ということを。
「このミステリーを読め」とかあるじゃないですか。
「何故無かったんでしょうね?」っていう会話になって、
「僕は、音楽ジャーナリズムに多少なりとも身を置いているので、
わかるんですけど、異常ですよね?落語のジャーナリズム・評論って」
「そもそも評論なんて代物じゃないですよね今あるのって。
おかしいじゃないですか」と。
で、その時に僕に取材するような人たちでみんな言ってたのは、
「だってねぇ・・。評論家って立川流見ないもんね」
っていう話があったんですよね。
これは当時の雰囲気だから、2011年になると、
「そんなことないだろ?みんなだって
立川流ちゃんと書いてるじゃないか!」って。
まぁ僕が言うのは何ですけど、あんな本が出た後で
さらに、立川流無視したらそれはもう落語の本かけないんで(笑)
だから「この落語家を聴け」っていうのを書いた動機は何か?
っていうことをよくいろんなの方に聴かれて、
「それは必要なのに誰も書いていないから、
放っておけばこのまんま落語好きになろうと
思って寄席行ったらさぁすごいつまんなかったんだよね。
あんなにハマっている人の意味がわかんない
私は向いてないのかな?」ってみんな離れちゃう。
それでもいいんでしょうね、きっとマニアの人たちはね。
「よそもの入ってくるな!落語の良さがお前らにわかるか!」と
蒲田
逆に入って来て欲しくない(笑)
広瀬
「土足で入ってくるな!俺たちの聖域に!」ぐらいの
勢いはきっとあったんだと思います。
で、落語評論家はわりとそういう風に意識は向いていて、
○○は良くないとか、○○まだまだだってことを書いても、
「今この人を観に行くと、こんなに楽しいよ!」
ってことは訴えかけなかったことが
おかしいので僕はそれを書いたんだ!と。
それが「何故あなた『この落語家を聴け』を書いたのですか?」っていう
長い長い答えが
「落語評論はなぜ役に立たないのか」という本なんです。
蒲田
なるほど!その答えがここにある。
広瀬
そうなんですよ。長いですね、話してみるとね(笑)
蒲田
そんな広瀬さんは、本職は「BURRN!」の編集長ですよね。
広瀬
はい。言葉の端々にも出てきますね(笑)
蒲田
僕も30年ほど前にメタル小僧だった経緯があるので・・。
広瀬
そのだからね、30年前っていうのが悲しいんですよ(笑)
今も聴いて下さい!!
蒲田
僕はだから、その後の評論家たちのなんとなく懐古趣味的な部分は
わかんないでもないです。
ツェッペリン最高だよね!ってなっちゃうんだけど、
でもそれは今ある生のエンターテイメントを楽しむための態度ではないと。
広瀬
あとだから、大事なのは評論家っていうのは
誰に対して何をするべき立場なのか?ということなんですよ。
音楽ジャーナリストは、音楽家ではないですよね。
ミュージシャンじゃないから、でも単なるリスナーでもない。
じゃあ何かというと、間にいる人ですよね。
間にいて何をするのか?というと僕が思うには、
「その業界、たとえば落語なら落語という業界を発展させたいと思って
より多くの人のその魅力を知ってもらおう!」という愛情・情熱があって、
なんかそんな面倒なことをやっている人たちだと思うんですよ。
評論なんてやっても誰にも喜ばれないんですよ、基本ね。
みんな何にも言わなければ、叩かれることもないのに(笑)
「何エラそうにこんなこといってるんだ!」ってことを言われても構わない。
評論というのは基本的に「単に好みを言うだけ」になっちゃいがちなんですね。
何も考えないと。それは完全に客観的な人はいませんから、
でも、自分は自分の好みから離れられないということをわかっていても、
でも自分はなるべく客観的になろうと努力するから、
みんなこのジャンルを好きになって!
っていう訴えかけですよね。
「これ、こんな面白いんだよ!」
「○○下手だ!」とかそんなこと言うんじゃなくて、
ヘビーメタル・ハードロックぐらいジャンルが大きくなってくると、
良くないものをたまたま聴いちゃっただけで、
嫌いになられると困るから「これ、良くない!」って
はっきり言うことは必要なんですよ。
だから、評論家は良くないものは「良くない」と
はっきり言うことは必要なんですけど、
落語くらいマーケットが小さかったら、そんなことは置いといて(笑)
とにかく「こんないい人がいるんだ!」
って事からはじめなきゃいけないから!
っていうことで、評論っていうのはだから、
受け手でもない、演者でもない、その間にいて視線は、
演者の側から読者・客に向けて「こんなですよ!」って語るんですよ。
でも、姿勢は客の側にいなきゃいけないんですよ。
客に対して啓蒙するとか、上から目線じゃないんですよ。
評論家っていうのは「最強の観客」でないといけないと思うんですよね。
観客として自分はベストだ!という自負がないといけない。
そうでなければ、少なくともそういう自負がなければ、
評論なんかやっちゃ行けないと思うんです。
当然、観客でない人は評論できません!
見てない人はダメです!見てない人に評論は出来ません!!
月に5・6回行く程度の人はダメです!!そんなの全然ダメ!
だから僕がいっぱい観てるって「どんだけ暇なんだ!」とか
「いつライブ行ってるんだ!」とか、それはね、
ヘビーメタルファンに言われるのはわかるけど、
落語のことで落語ファンから言われたくはないですよね。
たくさん見てない人には何も言えないですよ。
堀井さんは僕の見ているものとはかなり内容が違うんです、
あの人は寄席中心に今なってますから、あの人の統計で出てくるものって、
僕が統計とってもかなり違うんですけど、
でもあの人はたくさん見てるから説得力があるし、
それはたくさん見ている・現場を知っているが故に
言えることってのは無限にあるんですけど、
蒲田
ただ見てるものが違うから当然論評が違ってくるという話ですよね。
広瀬
だけど結果的には似通ってくるのが、
これが面白いところで、結局その見方はいろいろあるけれども、
万人が認める面白いものってあるんですよ!
だから名人っていうのは、ひとりの人が「あいつは名人だ!」って
って決めるもんじゃなくて、
みんなが「あいつは名人だよね?」「そうだよね」
なんとなく一致してくるんですよ。
何代目の団十郎は名優だ!とか、あの人は名人だ!というのは、
なんとなくみんなの共有する価値観の中で生まれてくる。
だから、僕と堀井さんと吉川先生とかも含めて、
たくさん落語を見ている人たちが、共有して見るもの、
価値観っていうのが出てくると思う。
それがだから、そういうものをその中で出てくるのが
「今この人を聞くのがいいんじゃない?」っていうおすすめなんです。
でも、たまたま年に1回か2回見ただけの談春で、
「いや、あの程度の上手さで別にどうでもいいんじゃない?」
っていうことを思うのは勝手ですけれど。
本当に本の中でも書いたんですけど、
エラリー・クイーンとアガサ・クリスティは
暗記しているくらい全部知ってるんだ!と
で、日本の推理小説は好きじゃないんだ。
ってしかも最近は海外のも読まないっていう人が
たまたま東野圭吾の最新作を読んで、なんか論評したとして
それは興味深いことではあるけれども、何を言うのか?
蒲田
そういう見識の人が何を言うのか?
広瀬
「ここまで来てるのか!」っていうのか?興味深いですけども、
あんまり説得力はないですよね。いずれにしてもね。
評論家って言われたくない、単に意見。
っていうのと同じで、今たくさん見てる人じゃなきゃいけない。
評論っていうのは、お客目線であって、曲を持って増やそうと・・。
みんなあるとおもうんですけどね、
インターネットでも良い部分っていうのは、
善意で成り立っている部分ってあるじゃないですか?
悪意もものすごく垂れ流すけど・・(笑)
善意で成り立っている、「これを知りたい!」っていう人に
「俺知ってる!」ってそれぞれ持ち寄るっていうがありますが、
それがある芸能のジャンル、音楽のジャンルの中で、
ヘビーメタルが今ほど大きくなかった時代80年代ぐらいの僕たちの中では、
「あのバンドはいいよ!」「輸入版あれ買った?」
「今これキテるよね!」っていう感じのものが、
当然落語ファン同士にもあるんですよ。
でも、それをすくい上げるマスコミ・ジャーナリズムが無いと、
それは甚だ効率的ではないわけです。それぞれの口コミだけだと・・。
だからそこで、「BURRN!」っていう専門誌があったり、
伊藤政則さんっていう評論家がいたりというところで、
そこで、みんなにヘビーメタルファンがみんな共有していう価値観を
さらに広めて、「あ、そんなに面白いんだ!」ってなることによって
発展するという過程があったのと、同じことを落語でもやるべきだと思うし、
やってないんだったら、僕は「やりたいな!」と思ってやったということですね。
蒲田
最強の観客になりたいと。で、なろうとしてる、なってるということですね。
広瀬
僕が最強だと言い切ってるわけじゃ、全然ないですよ。
ただ僕「この落語家を聴け」っていう本を書く時にも、
「僕が書かないと、たぶん堀井さんが書くんじゃないか思いますけど・・」
とは言ってたんですけど(笑)
吉川先生が書いちゃうと「この人、立川流の顧問だからな」の一言で
終わっちゃうから(笑)
だから、堀井さんが書かないんだったら、
僕が書くしかないのかな?って思いますけど。
ってことは言ってたんですけど。
蒲田
いずれにしても、評論というのはそういう立場の
態度であるということなんですね。
広瀬
そうです。自己表現じゃなくて、お客さんのためにやっている。
表現することんじゃないんですよ、
そんな大したもんじゃ無いんですよ、評論なんてものは。
架け橋ですね。
(最終回に続く)
「BURRN!」編集長で落語愛好家・広瀬和生が語る「落語評論はなぜ役に立たなくなったのか?」(終)に続く
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