ライムスター宇多丸が語る「社会的入院とは?」

2011/10/13

キラ☆キラ 宇多丸 社会的入院 小島慶子

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今回は、
2011年9月21日(水)小島慶子キラ☆キラ

ライムスター宇多丸さんのペラ☆ペラ を起こしたいと思います。

『精神医療に葬られた人びと 潜入ルポ 社会的入院』
という本について語られています。

音声はこちらから



宇多丸
今日もですね、ちょっと本を紹介しようかな?
というふうに思ってるんですけど、

光文社新書から出ております、
『精神医療に葬られた人びと 潜入ルポ 社会的入院』
織田純太郎さんという方が書かれている本なんですけど、


あの以前、想田和弘 監督の『精神』という精神病患者の方を
追ったドキュメンタリーの話とか、その本なんかも紹介したと思うんですけど。
そもそも、僕の父親が精神科医なんですよね。



日本の精神医療のあり方を、わりとこう過激に変えようとしてきた病院がありまして、
そこを立ち上げて、今はもう半分隠居状態ですけど。
なので、僕も比較的関心が高い方だったっていうのもあるんですけど。

今回ご紹介する本は、そこにちょっと僕の父もチラリと出てきたりするんですけど、
早い話が「社会的入院」って言葉ね、どういうことかというと、
治療目的で病院にいるんじゃなくて、別に入院してる必要はない。

例えば、外来で来て、お薬もらって在宅で別に治療しても良いし、
もっといえば、病気的にはもうそんなにいいですよみたいな、
普通に社会生活にどんどん移行していってもいいんじゃないですか?
みたいな人も、社会に戻っていく条件が整っていないためにずっと長期入院を
続けている状態とかを「社会的入院って言うんですけど。

それで、高齢者の方とかそういうのが治療じゃなくて「居させる場」っていう感じにも
なっているようなのがあってとか、一旦入っちゃうとものすごい長い期間
ずっと社会復帰の見込みもないまま、社会復帰できるはずなのに
あまりに長期にわたって、例えばここに書かれている方は40年!

すごい若い時に入って、そのまま40年ずっと居て、
この作者の織田さんという方は、精神病院に入院して、そのきっかけもすごいんですけど、
最初要するに、「鬱かなぁ?」と思って、お医者さんにあちこちかかって、
で、鬱病の薬を処方されて、でもどうも良くなんないし喉の具合も悪くなるし、
途中で、「この薬、合わないんでちょっと止めてもらいます?」かって、
「はいはい」なんて言われて、出された薬がやっぱりそれだったとか。

結構、ずさんな感じでずっとあって「鬱です」「鬱です」って言われ続けて、
で、ちゃんとどんどんどんどん調べていって血液検査してみたら、
鬱でも何でもなくて「バセドウ氏病」だった。治るわけがない。

誤診に誤診を。最初の出だしの時点から「あれ?」っていうのが続くんですけど、
とはいえ、療養のためにしばらく入りましょうということになって、
そういう実態を見るわけですね。ものすごい長い期間入院してるしかないという。

織田さん自身が見聞きした知り合った患者さんの話とか、
それと並行して日本の先進医療というか構造的に抱えている問題みたいな。
なんでこういうことに?

世界で一番精神病院の病床数が多いっていうのがすごい。
世界的に減らしていこう動きがあるんだけど、日本だけ突出して多いので
それは海外からすごく非難されてたわけですよ。

「最近減らしてます」みたいなことを言ってるんだけど、
それはこの本によれば、単に同じ状態の言葉の言い換えが行われているだけで
実際は、長期入院している人は全然ずっといるし・・。

この間の震災の時に、病院の中で置かれたままになって亡くなっちゃった人が
結構いたりとかして、それなんかも問題になったんですけど。

なんでそういうことに日本はなってしまうのか?っていうのを、ずっと歴史とかも
振り返って見れるので、ある意味潜入ルポとして臨場感のある今そこにある問題として
その方が見聞きした通りに知れるということもさることながら、

世界的な動きがどうなっているのかっていうのと、
日本の精神医療の歴史がどうなってきたのか?どこに問題点があるのか?
すごくわかりやすく俯瞰できるというのもあるので、
是非ちょっとあの入門編と言うんですかね?としてもいいと思うので、
『精神医療に葬られた人びと 潜入ルポ 社会的入院』
オススメしようと思ったんですけど。

小島
私ね、色んな本にも書いてるし、インタビューに答えてるけど、
2人目の子供を産んだ時に「不安障害」っていう病気になったんですけど、
その時ね3人お医者さんにかかって、1人目のお医者さんでも
2人目のお医者さんでも、ほとんど話聞かないうちから
「あなた、鬱病です」って言われたんです。

でもどうも自分で調べていった鬱病の症状と違うし、
あともらった薬がすごく合わなくて、フラフラになって。
なんかものすごく具合が悪くなっちゃって。
「なんか私違うと思うんですけど」って言うんですけど、
「いやいや、鬱病ですからすぐに会社に『休む』って届け出して下さい」って言われて
「うーん・・。」って違う先生に変わって、また同じこと言われて、

「でもやっぱり違う気がするな」って、次の先生に変わったら、
「あなたは不安障害という病気ですから」って言われて、
出された薬も全然違う薬でですね、私はそれは半年で良くなったんですけど、

その時に思ったのが、
「ああ、こうやって違う病気なのに誤診されてすごくフラフラになっちゃう薬を
飲み続けてもしかしてそれで会社を長く休んだり病院から長く出られなくている人も
もしかして、いるのかなぁ?」って思ったりとか。

宇多丸
すごい怖い話すれば、それで薬を飲んでね、会社休んで。
どんどんそうじゃないから具合がおかしくなって来るじゃないですか?
「治んないなぁ・・。じゃあ入院しましょうか?」なんつって、
それでどんどん仕事しない期間が伸びてさ、なんてことになったら
それこそ「社会的入院」みたいなことになってちゃうかもしれないしね。

小島
本当にだから鬱病で合ってる薬できちんと治療して元に
復帰できるからも居る一方でね・・。

宇多丸
もちろん薬で全然治る病気とかもあるんだけど・・。

小島
診断が間違えている、見立てが間違えているっていうのは、
わかんないもんね、本人にも周りの人にも。

宇多丸
やっぱりね、『精神』って想田監督の映画でもあれを見ると
ひしひしとわかるのは、やっぱ
人の心の話だから、人の心ってわかんないじゃないですか!
臓器がさぁ、ココが悪いんだなみたいなふうには見えないじゃないですか!

小島
なんか今、脳の中の値がグッと減るんだとかいろいろ言われてますけど、
数字でパッと出せたりはしないもんね。

宇多丸
だし、やっぱりその人なりの心の問題でもあるし、
家族との関係だったり、社会との関係だったり、そういうの込みでのさぁ
心の問題じゃないですか。

小島
なぜ、そうなってしまったのか?っていう理由はそれぞれだし。

宇多丸
だから「上の歯が虫歯ですね、じゃあこの薬」っていうようには治せない。
っていうか、そう判断、診断できない類のもの・・。

小島
そうだよね、チョコ食べた人の虫歯とするめ食べた人の虫歯も
同じように治すもんね。

宇多丸
それは出来るけど、そうはいかないってところがあって。
早い話が単純にメソッドか出来ないものなのに、
「薬いっぱい出しときましょう」みたいなのとか、もっと悪質なところになってくると、
長期入院している人がこんな数いるということは、なんでかって言うと、
要は、「経営のため」っていう。

ここに出てきますけど、ある種の病院の人とかが
「固定資産」っていう言い方をしている。

小島
何その言い方!!ひどい!!

宇多丸
でもね、それはその病院が「ひどい!」って話に思えますけど、
もちろんひどい話なんだけど、なんでそうなるかって言うと、
やっぱり日本の精神医療のシステムが歴史的にそういうところへ
行かざるを得ないような構造的な問題を抱えてる。

やっぱり病院だって経営して行かなきゃ行けないし、
精神病院ってのはさ、出来るだけ最小にして出来るだけ普通に
みなさん生活していく中で・・。
だって、ただの病気でいきなり入院して閉じ込められたりしないじゃないですか!
なんだけど、普通の病気として扱われてこなかった歴史
ってのがあるわけです。

普通の病気と同じように扱われてこなかった歴史ってのがあって、
その結果、色んな歪みがその発想に繋がっていっちゃってたりすると。
いうのがあってですね。

これはやっぱり国のシステム自体からちゃんと変えて行かなきゃいけないんだけど、
やっぱこれを読む限りは長年にわたって色々ね、
色んなところで色んな試みがされてるんだけど、
なかなか好転していかないし、好転するどころかたとえば、

時々事件が起こるじゃないですか。
殺人事件が起こりました、犯人はそういう精神障害を持っていました、
入院歴がありましたって、なんか精神病者は恐ろしい危険な存在であるという
イメージの流布がそこも拍車をかけたりしてですね。

小島
報道される時点ではね、事件を起こしたこととその人の色んな病歴っていうのが、
関連してるかどうかわからないのに、なぜかその情報だけを
「通院歴ありました」ってのだけだすとすごく恣意的になりますよね。

宇多丸
それもそうだし、精神病者が特に犯罪を起こしやすいっていうのは、
完全に数字のトリックであるというのがこの本に書かれていて、
むしろ普通の人より少ない位なんだけどっていう。

なので、精神病者に対する社会的変化は世界的・普遍的にありますけど、
ただその日本の今の現代社会だと、特にやっぱ非情な冷たいものとして
あったりして、なかなかこう事態が好転していかないということもあるみたいですね。

小島
でもねぇ・・。深刻ですよ。
だって鬱病の患者さんはとても増えていてね、
偏見があるからお医者さんに行かないで、うんと重くなってから
かかって治療に時間がかかってしまったり、
最悪の場合、自ら命を絶ってしまう人もいるわけだから、
偏見が少なければ早めにね治療できたかも知れないのにってあるもんね。

宇多丸
まさにおっしゃる通りで。小島さん自身も「不安障害」つって、
普通に心なんて不安定なものだし、いつでも心の病はかかりうるし、
もっと言えばね、生きやすさのね、人が生きる幅って言うかさぁ
ここは正常、ここは異常みたいのはさ幅は広い方が生きやすいじゃないですか!

やっぱりに、いつの間にか生きづらい世の中になっちゃったわけですよ。
だから3万人も毎年死ぬ訳じゃないですか。
その精神病にかかってる人たちがその社会で生きやすくするっていうのは、
我々が社会で生きやすい社会を作るということに全く直結してる問題なんだ
っていうかということまで、ここに書かれていて。

新書だから手に取りやすいですし、入門編として歴史の部分でもわかると思います。
僕の父もちょろりと出てきて、精神医療の改革の
僕の父の試みの成果の部分と限界の部分ところまで描かれていて。

小島
お父さんの言葉の語尾は「Yo!」ってなってるんですか?

宇多丸
なってません!ラッパーじゃないんで(怒)
ただ、ラッパーじゃないんだけど病院にディスコがある病院で、
毎週金曜にDJやってます。日本語ラップかけまくってるみたいですよ。

小島
ほんと!!お父さんカッコイイ!!
お父さん最高!そうなんだ-。へぇー!!

宇多丸
それをかれこれ40年くらい・・。そんなのも出てきます。
ただね、よく色々ずっと子供の頃から精神医療の話を聞かされて、
限界を感じて、今、隠居状態になってて、
何が限界なのか?で、やっぱ最終的には国のシステムのこともそうだし、
その手前の段階としてこういう問題があるんだということを、
広くみなさんに知っていただくことが先決かなと思いまして、
ちょっとこの御本を紹介させて頂きました。

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