今回は、TBSラジオ・ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル
2011年8月20日放送分サタデーナイトラボ
「<脚本のお医者さん>イズ・バック!
スクリプトドクターとは何か特集 リターンズ!」
を起こしたいと思います。
前後編にて配信されているうち、今回は前編を起こしたいと思います。
前編は「スクリプト・ドクター」の概略とそのお仕事についての質問に
映画監督でもあり、スクリプト・ドクターの三宅隆太監督が答えられています。
音声はこちらから
ライムスター宇多丸(以下、宇多丸)
今夜お届けする特集はこちら!
「<脚本のお医者さん>イズ・バック!
スクリプトドクターとは何か特集 リターンズ!」
2009年に一度特集いたしました、カニと修造理論など
数々の印象深いフレーズを生みだした、
脚本の医者さんことスクリプト・ドクター特集
しかしあの特集はスクリプト・ドクターという仕事の入り口に過ぎなかった。
というわけで、本日最新作「七つまでは神のうち」が封切りになった
映画監督にして脚本家、そしてスクリプト・ドクターでも
三宅隆太監督をお招きしましてこのスクリプト・ドクターという
日本ではまだ珍しい仕事について更にググッとディープに伺っていきたいと思います。
それでは三宅さんよろしくお願いします。
三宅隆太監督(以下、三宅)
よろしくお願いします!ブルボン三宅です。
三宅・ブルボン・隆太です、よろしくお願いします!
宇多丸
もうね、もはやそういうイメージがね・・、ちょっとついてしまいましたけど。
あのとはいえね、三宅さんは甘くはないですからね。
ブルボンのように甘くはないですよ!
で、とりあえず今回初めて聞く方もいらっしゃると思うんで、
この耳慣れない日本ではまだまだ、スクリプト・ドクターというお仕事について、
ざっくり!まずは復習的にお教え頂きたいんですが。
三宅
わかりました。
普段みなさんがね、よくご覧になってる映画とか
テレビドラマっていうのがあると思うんですけど、
「あれ?なんかこれ、シナリオ上手くいってないんじゃないの?」と
思われる事あるかもしれないですけどね、
で、あういうものっていうのは基本的に脚本家がですね、
自分が書きたいものを好き放題書いてそのまま映画になったり、
テレビになってるってことはまず無いんですよね。
宇多丸
必ず誰かのチェックを経てる?
三宅
そうですね、チェックを経て・・。
まぁ例えばプロットっていうねシナリオの前段のような、
時間軸の沿ったあらすじみたいなものですけども。
そこを経て、初稿・第一稿っていうシナリオになって。
それをまぁ例えば色んな制作上の事情とか、色んなオーダーに応えながら、
リライトと言って書き直しをしていくんですね。
そのリライトを経て、撮影をする決定稿というのになるんですけど、
その間にですね、プロデューサーと脚本家が大体1対1でリライトを続けたり、
間に監督が入ったりするんですけど。
色んないじり方をしているうちに、
シナリオってどこかを直すとどこかに必ず影響が出るものなので、
何を問題にして直していいのか?分かんなくなってしまうというか・・。
宇多丸
なるほど、あちこち直しているうちに元は何が問題なんだっけ?みたいな。
三宅
逆に新しい問題が生まれちゃったりとかするんですね。
今度直しすぎた時に。
宇多丸
「こっち直したから、今度こっちに矛盾でちゃってるじゃない」とか・・。
三宅
そうなんですよ!必ず鎖みたいに繋がってるものなので。
でまぁ、リライトが行き詰まって来た時にスクリプト・ドクターという形で
外部の客観的な視点から、実際今問題になってるシナリオの具体的患部というか、
そういうものを発見して指摘して修正の方法を提案したりする仕事が
スクリプト・ドクターですね。
宇多丸
これ要するに、「外部の視点」とおっしゃいましたけれど、
内部の視点ではどうにもにっちもさっちも行かなくなっちゃった状態っていう・・。
三宅
そうですね、客観性を見失ってしまう場合があるんですよ。
宇多丸
「もう俺よく分かんない!」
「何が最初の時点でいいと思ったか、悪いと思ったかもよく分かんない」みたいな。
それを客観的に見て、「実はここがあるんですよ」
三宅
問題点じゃ無いと思われてたここが問題点だったって事もありますね。
宇多丸
なるほど具体的にはその仕事だと。
三宅
あとあれですね、ドクターというと、
よく言われるのが、「そんな名前聞いたこと無い!」っていう話なんですけど・・。
宇多丸
そんな例えば映画のエンドクレジット見てて、
スクリプト・ドクターってまず出ないですよね?
三宅
まず出ないですよね。
それはスクリプト・ドクターの仕事が大体ノンクレジット契約って言って
名前を出さないで参加する、まえ宇多丸さんが「影の軍団」とおっしゃってましたけど、
まさにそういう仕事です。
宇多丸
それが条件となっている事が・・。
三宅
えーと、そうですね条件というか、
まぁ日本ではまだその認知度が低いっていう事もあるかもしれませんね。
宇多丸
日本でちなみに何人くらいいるんですか?
三宅
多分、僕を入れて7人くらい。
宇多丸
7人って具体的に出て来る所がすごいですね(笑)
三宅
まぁ2年前の放送から時間経ってるんで、9人くらいになってるかもしれないですけど。
宇多丸
っていうても、まぁ両手でちょっと足りるくらいではないかと。
ちなみにアメリカなり何なりではもうちょっといると。
三宅
もっとたくさんいます。
宇多丸
というのが、おおむね概要ということでよろしいんですかね?
三宅
はい、大丈夫です。
宇多丸
あの・・、なんですけどまぁ前回色々お話していただいたんですけど、
その後スクリプト・ドクターの三宅さんとしてこう紹介されたりとか、
多いと思うんですけど、認知された方多いと思うんですけど、
それでもなんかちょっと「あれ?そういうことじゃないんだけどな・・。」みたいに
思ったりすることも多いんですか?
三宅
うーん、結構ありますね。
誤解というかですね、まぁ無理もないんですけど。
一番感じる誤解っていうのは、スクリプト・ドクターの仕事って言うのが、
何かシナリオを型通りの方に持っていくとか、
完璧なフォルムにする事がドクターの仕事でそれが美しいとされているみたいなふうに
思われたりするんですけど・・。
宇多丸
何か黄金律的なメソッドがあって、
そこに出来るだけ戻していくような仕事だと思われがちだとか?
三宅
そうですね、つまり作家のオリジナリティを無くして削って
型通りな同じような映画ばっかりにしちゃうのがドクターの仕事だっていうふうに、
ちょっと思われている節を感じる場面が何回か合ったので、
「いや、それとはちょっと違うんだけどなぁ・・。」という事ですね。
宇多丸
ほうほうほう、具体的にどう違うというのは後ほどね、伺っていこうと思うんですけど。
とはいえ前回の特集で初めて知ったよと・・。
僕も含めてね、そんなにわかって無い人が多いと思いますので、
リスナーの皆さんからも色んな質問が来てたりしますんで、
今夜は三宅さんに素朴な我々の質問に答えて貰いながら
スクリプト・ドクターの仕事、ひいては脚本とか映画制作の過程ですかね?
について正しい理解を更に深めて行ければなぁというふうに考えております。
ではこの後、三宅隆太監督への質問攻めスタートです。
(中略)
宇多丸
それではいよいよ三宅さんへの質問結構来ているので、
時間内に全部紹介できるか分かんないですけど始めさせて下さい。
ではまず1発目行きますよ。
「スクリプト・ドクターになるのは、どういうルートが?」
どうやってなるんですかって事ですかねぇ・・。
三宅
えーと、まぁいわゆるAVIVAで4級みたいな資格制では無いんですよね。
宇多丸
これ映画の仕事全般ねぇ、何かをやれば何かなるというルートまず無いですよね。
三宅
無いです。
映画監督も脚本家も資格がない状態でやってますので、
そういう意味で非常に危ういと言えば危ういんですけど(笑)
ドクターはまさにもっとそうですよね。日本で数が少ないので。
なので、僕がどうやってきたかを言った方が良いのかもしれないですけど。
僕の場合は、前回の放送でもチラッとお話ししましたけど、
自分自身がそのシナリオ学校とかも行ったことが無かったので、
ずっと子供の頃からテレビで洋画劇場を見て、ビデオデッキがなかったもんですからね。
それでそのセリフを書き起こしたり、カセットテープに録って音だけ聞いたりして、
そうやってこうセリフを書き起こしてシーンを書いてってやってくうちに、
なんとなく映画の構成とかがわかってきたんですよね。
宇多丸
すごいですよね。採録シナリオをずっとやってたってね。
三宅
他にすること無いのか!って話なんですけど(笑)
宇多丸
素晴らしい!結果的に訓練になってた・・。
三宅
そうですね。
結果的にそれが実は訓練になっていて、
まぁ大体の映画は1回見るとシーンの流れが最初から最後まで頭に入るクセが付いたんですね。
で、それがいくつか資料として溜まってきた時に、色んな映画の分析が溜まってきた時に、
ある時そのリライトで苦労してる現場ってのが、いっぱいあるんですよ。
それ自体がいっぱいあるんですよ。
「どうしよう!どうしよう!」って、「日本にドクターがいたらいいのに!」って
知り合いのプロデューサーが言ってて、「やってみましょうか?」っていう話になって・・。
宇多丸
それは脚本家として色々お仕事された後って事ですか?
三宅
そうですね。
もうしてたんですけどたまたま雑談をしてた時ですかね・・。
その知り合いのプロデューサーがやってるプロジェクトが
あんまり本直しが上手くいってないという相談を受けて、
「じゃあ、やってみます」っていう事で始めて見たら思いの外・・。
宇多丸
それは上手くいったんですか?
三宅
上手くいきましたね。
それでそこからいつの間にか数珠つなぎ的に。
宇多丸
やっぱ業界狭いから結構噂で、
「あそこの止まってたシナリオが上手くいったらしいよ」つって。
三宅
はいはい、そうですね。
でどういう事だったんだろう?っていう話になった時に、
ドクターが入ってたという話になってお話を頂くようになったっていう感じですかね。
宇多丸
じゃあその根本のところを言えば、
やっぱ脚本家としてある程度信頼される仕事を重ねていってというところ何ですかね?
三宅
そこはあるかもしれませんね。
それとやっぱり僕自身が脚本家なので、脚本家の悩みとか、
どういうふうに悩みから解消されるのか?っていうのも実感として分かっているので、
そこは大きかったかもしれませんね。
宇多丸
ちなみにでも、スクリプト・ドクターをやるにあたって、
自分で脚本を書いたこと無いっていう人とか有り得るんですか?
三宅
逆に脚本家をやってて、僕は短編を入れると200本くらい書いてるんですけど、
多分ここまで脚本を書いて監督もしてドクターもやってるのは僕だけだと思います。
宇多丸
あ、むしろ離れた立場の人の方が・・。
三宅
そうですね、それはそれで違う種類のドクターの魅力があるんですよ、全然客観的に。
すごく分析が得意な方とか、コンサルタント的な感じで入ったりとか。
宇多丸
要は、作り手の苦労とかとは一旦離れた立場とかそういうメリットもありますしね。
三宅
ドクターにも色んな種類があるって事ですね。
宇多丸
そういう人は逆にどういうルートでね・・。
脚本家からっていうのは想像が付くんだけど、どうなってるんですかね?
三宅
どうなってるんでしょうかね?
あのー、プロデューサーと多分違う仕事をしてて話してる中で、
ドクターの仕事になっていく人もいるでしょうし・・。
宇多丸
まずは映画プロデューサーと相談されるような立場になる。
人間関係的にそういう位置に行くっていうことですかね。
三宅
それはあると思います、なんであれ。
宇多丸
下手すれば、飲み屋でよく会う人が・・。ゴールデン街で・・。
三宅
それはあり得ると思います!!
宇多丸
ゴールデン街に通う(笑)
三宅
その後オーダーが続くかどうか?というのは能力の問題ですけどね。
宇多丸
わかりました、ということで答えになりましたかね?
スクリプト・ドクター、三宅さんはこうやってなったという・・。
じゃあ2つ目行きましょう。
「1本の映画にドクターとして入った場合大体どれくらいの時間が関わるものなのか?」
三宅
これはよく聞かれるんですけど、
本当に企画によってケースバイケースなんですけど、
最短で今まで30分ですね。
宇多丸
つまり、こことこことここが悪いよとパッと読んで分かったと。
三宅
いや、読んでないです。
30分なので最初に話をして会ってみたいというプロデューサーから
今こういう企画でこういう事が起きていてっていうのを聞いて、
もう読むまでも無い問題点があったんですよ。
それで最初の打ち合わせというか面接みたいので、
解決策が見つかったのが最短で30分。
宇多丸
読むまでも無い問題って何ですか?
三宅
えーとね、それを言うとね色々具体的に分かっちゃうんですけど(笑)
ただ要は、うーん・・。
色々ありますね、人選の問題の場合もあります。脚本家の。
宇多丸
そもそもこの企画に向いていないとかそういうレベルの話・・。
三宅
そういう可能性もあります。
それが脚本家を苦しめている場合もありますし、
あるいは根本的に企画として映画として無理があるものだったりする事もありますし。
宇多丸
映画化はまぁ不可能とまでは言わないまでも、非常に難しい素材ですよこれは!と。
三宅
ある部分をクリアするという決意があるんで有るんであれば行けるかもしれないけれど、
それがその行政とか色んな問題で難しいのであれば、
この企画自体が難しいだろうというのが、30分。
で、一番長いのは4年半ですね。
宇多丸
4年半っていうのは、脚本を手にしました、読みました。
で、どういう作業を重ねていっての4年半なんですか?
三宅
えーと、色んな脚本家さんが変わって色んなリライトが続いたり、
同じ脚本家さんが何回か書いたりっていうのが何回か進行している映画企画があって、
その都度ドクターで入っていて・・。
宇多丸
じゃあ毎回同じ企画にちょっとメンツが変わった状態。
状態が変わったあれでもう1回会うと。
三宅
そうですね、はい。
それがあの世の中のちょうど、そのある原作ものだったんですけども。
事件とかの影響でちょっとメインストーリーを変えないといけないかもしれないみたいな
時期を経てしまったんですよね。
宇多丸
よくありますよね。
それこそ震災があったからちょっとこのシーンはダメだろうとか。
三宅
それをやってるうちに時間が経ってって、そうでもなくなったり(笑)
宇多丸
「やっぱあれ、そんなナーバスになる事なかったんじゃね?」みたいな(笑)
三宅
そう言うことを繰り返しているうちに、原作権を引き延ばしているうちに、
開発費がどんどんかさんでいって。
宇多丸
開発費っていうのはその脚本をブラッシュアップするために・・。
要は人件費ですよね。
三宅
そうですね、人件費とか後は原作権のお金ですよね。
宇多丸
原作権っていうのは期間で?
三宅
そうです期間で。
ですから原作権をもう1回伸ばしてまでやる企画なのかどうか?っていうところに
最後は行きつくんですよね。
宇多丸
4年も経ってハリウッドじゃないでしょう。
ハリウッドだったら例えば4年寝かせて無くなる企画って山ほど有るでしょう。
どうですかね?日本で4年そんなに人が関わっちゃって、
ポシャらせる事にものすごい勇気がいるじゃないですか?
三宅
そうですね。
あれはだから本当にプロデューサーの方の執念の企画だったんですよね。
僕はそこをすごく魅力を感じて付いていったんですけど。
まぁやっぱりものには限度があるっていう・・。
宇多丸
その辺は具体的にはおっしゃれないと思いますけど。
もう公開されてるんですか?
三宅
えーと実はですね、原作権が切れた後
別のプロジェクト、別の会社がその原作権を取ったら
一瞬で映画化されたんですよね。
で、それは何でか?っていうと、
原作にある問題点だとされていたところを
目をつぶってまんまやったんです。
そしたらそのまんまの映画がすぐ出来ちゃった。
それが良いか悪いかは、また別ですよ。
プロジェクトとしてもそこに正義を見てるかどうかになってくる話になってくるので。
ただ一瞬でしたね(笑)
宇多丸
じゃあさぞかし4年間執念を燃やしていたプロデューサーさんはほぞを噛んで・・。
三宅
かなりショックを受けてましたね。
ただ同時に「いや、あういう映画にしたかったんじゃないんだ!」っていうのは、
あったと思いますね。
宇多丸
平均でじゃあどれくらいですか?
短くて30分、長くて4年半。
三宅
うーーん・・。
もう本当まちまちです。1ヶ月2ヶ月もあれば、半年もありますし。
宇多丸
並行に関わったりもしますか?
三宅
します、します。
今も同時に6本くらい同時にやってますね。
宇多丸
6本!やっぱ患者さんいっぱい抱えてるという。
患者さんはちなみに重傷の人と軽傷の人といるわけじゃないですか?
重傷の人っていうのはやっぱり時間掛けないと駄目ですか?
それとも糸口さえ見つかれば1発だったりするんですか?
三宅
実はあんまり時間がかかってるようだと、
それは根本的に問題があって直らないかもしれないですね。
つまりどこまで企画にこだわるのか?っていう所だと思います。
宇多丸
三宅さんの仕事的には一瞬と言ってはあれですけど、
読んでこうだ!って言うことまでのことだから、
それで時間がかかるってのは、やっぱり向こうがまた変わったりとか・・。
そういう事情による・・。
三宅
そうですね。
場合によってはいわゆる「確認します!」ってやつですね。
宇多丸
あー、「持ち帰ります」と。
指摘があってこことここが問題なんですよ。
お医者さんがこう言ってると。
「ちょっとこの・・、持ち帰ります」と。
セカンド・オピニオンちょっと他のお医者に・・。
三宅
あるいは、「上に確認します」っていう。
そこの連絡とか確認で時間がかかる場合も正直あります。
宇多丸
例えばその「けっこうこれ手術いりますよ」と。
「手術ですか?ちょっとこれ家族と相談します」って。
結局手術しな買ったりもあると言うことですかね?
三宅
それはありますね。あります、あります。
宇多丸
「あの人こう言ってるけど、これその後の要素のこれをね、
この俳優さん使わないとどうしてもいけないから・・。」というのがあったりとか。
三宅
そういう場合はすぐ終わりますね。
宇多丸
えーでまぁじゃあ続きまして、それとも関連する質問だと思うんですが。
「台本を読む時って一体どれくらいのスピードで読むのですか?」
いっぱい複数関わられたりも・・。
三宅
そうですね。
これは1回原稿をデータで頂いた場合はデータ上でやりますけど、
もしプリントアウトで頂いた場合はうちの方で
僕がもう一回印刷台本のフォーマットで打ち直します。一言一句全部。
宇多丸
ほうほう、パソコン上では見たくない?
三宅
っていうか、自分で一回言葉を掴みたいんですよね。
脚本家が書いた、なんでこのセリフの後にこのト書きなのか?とかっていうことを。
それを1回やってページ数を確定してそのページ数の時間換算で、
脚本家さんによって書き方が違う場合があるので、
まぁそれでも大体前後誤差5分くらい何ですよね。
あとエンドロールが付いて3,4分ってことを考えると、
それを差し引いた分の上映時間が割り出せるので、その時間で読むようにします。
宇多丸
えーと、例えば2時間の映画があったら2時間で読むように?
三宅
2時間で読むようにします、なるべく。
宇多丸
セリフのスピードなり何なり・・。
それってこう読んでって着地しなかったりってありますよね?
2時間だと思ってたのに2時間半かかったり90分で終わっちゃったり。
その場合はやっぱり何かが2時間半かかった時は多い、何かが多い?
三宅
その可能性もありますし。
あの難しいのはよく映画の話をすると
「そんなの監督の演出によってテンポ変わるじゃん」とか
「間の取り方変わるじゃん」って言うんですけど。
それはあくまで役者が入って撮ってく段階の話なんですよね。
やっぱシナリオの読み方ってある程度決まりがあるので、
時間に合わないのであれば何か理由があるってことですね。
単純にページ数と合ってないってことなので、
それがプラスに働いてるのか、
単に実はもしかしたら問題に繋がってるとこなのか?っていうのを
まず見ていくというのがありますね。
宇多丸
あのハリウッドで配られる脚本とかだと
1ページ1分っていう決まりがあるって言ってますけど、
日本の場合はそこまで厳密ではないと。
三宅
厳密ではないです。
個人差がやっぱりありますし、あとそのライターさんによっても
例えばアクションシーンにこだわりのある方だと、
ト書きが多くなったりとかもありますしね。
宇多丸
それをじゃあ一旦フォーマットに落とし込んで診断していくということですかね。
じゃあ続いて、これ結構重要かもしれません。
「脚本のリライトとスクリプト・ドクターではどこが異なりますか?」
これ意外と混同されてるところかもしれませんよ。
三宅
全く違いますね。
リライトっていうもの自体は、書き直しの作業そのものを指します。
ですから脚本家が初稿って第一稿をあげてきて、
プロデューサーさんから「こういうところ直して」っていう話があって、
「わかりました」つって第二稿あげてきたら、それはもうリライトです。
それが三稿なったり四稿なったり決定稿になったり、
あるいは別の脚本家が入ってきて書いてく場合もそれはリライトになります。
宇多丸
当然その書き直す際は、
「こことここが良く無いから、こうすればもっと良くなるだろう」と思って書くわけですもんね。
三宅
それがリライトと呼ばれるものですね。
スクリプト・ドクターはそのリライトで行き詰まった状況の時に入って、
アドバイスをする場合もありますし、色々サジェスチョンをするというか。
その上で脚本家がまたリライトをするということですね。
宇多丸
実際に書くのは、要するにまたリライトの作業になるわけですね。
三宅
なるほど。あ、そう言うことですよね。
えーとですね、スクリプト・ドクターの誤解のもう一つは
「俺ならこうするぜ!この困ってるリライトを」「こうして面白くしてやるぜ!」と言って
自分が書いてしまったらそれはリライターの仕事なんですね、と僕は考えています少なくとも。
要するに、「俺色に染めてやる」というやり方は単に脚本家が
新しく一人増えただけだと僕は思うんですよ。
宇多丸
それはもう完全にもうリライトなわけですね。
三宅
リライターですね。
僕が考えるドクターの仕事はですけれども、
脚本家の今悩んでいる・上手くいっていないリライト作業の大本を見つけて、
その脚本家が何で上手くいかなくなっているのか?
あるいは、プロデューサーがどう直していいかわかんなくなってるとしたら何故なのか?
っていうことを見つけて、その人達が そのチームが完遂できるようにしたい。
宇多丸
アドバイスをしてあげると?
三宅
そうですね、それとポテンシャルを引き出すというか、
場合によってはカウンセリングに近い作業になる事もありますし、
リラックスしてもらう場合も・・。
宇多丸
リラックス!?
三宅
重要です!重要です!!
すごく自意識がお互いプロデューサーと脚本家の間に
例えば不信感が生まれたり・・。
宇多丸
やっぱそういう険悪な空気になっちゃってるが故に上手くいってないこともある。
三宅
で、大事なことが見えなくなることもあります。
宇多丸
お互いに「俺はこのシーンは譲れない」とか。
「俺はこの描写が無いとこの作品は成り立たないと思う」みたいな事を言い合って、
前に進まないとか。
三宅
それだといいんですよ!
それは表に出てる衝突なので、いいと思います。
議論でいいと思います。
お互いが言ったことを忘れてたり、こだわってる部分が自分で分からなくなっていたりして、
本当に問題が見えにくくなってる時に、
「この脚本家、才能無いんじゃないの?」とこのAさんが。
「Aさん駄目だ、何度リライトさせても駄目だから。じゃあBさんに変えちゃえ」って
ならないようにしたいんですよね、僕は。
そのAさんがいいと思って元々雇ってるわけなので。
宇多丸
そこに本来の良さは、本質は絶対隠されているはずなのに。
三宅
絶対あるんですよ!絶対あるはずなんですよ!!
だから、どっかでつまづいてるんでしょうね関係性が。
宇多丸
そこを違う人に駄目だからって変えちゃうと、
そもそも何をしてたかを見失いがちになっちゃう・・。
三宅
そう思うんですよね。
宇多丸
三宅さんはアドバイスはどういうレベルでするんですか?
もちろん関係をほぐすっていうのもそうだと思うんですけど。
具体的に「このシーンはいらない」とかそういう言い方をするんですか?
三宅
それはドクターはみんなやれて当たり前のところで、
いわゆる前の時お話ししたような「3幕構成」とか構造的な問題ですよね。
それは見つけられないと話が進まなくて、やるんですけど。
宇多丸
それはもう最低レベルなんだ。
三宅
と思います。
そういうのは「ハイコンセプト」と呼ばれるジャンルなんですよね。
単純に2行でストーリーが言えて明確な売りがある娯楽映画ですね。
まぁ簡単に言うと、ハリウッドの大作とかエンターテイメント映画ですね。
もうひとつ企画には種類があって「ソフトストーリー」と呼ばれているものがあるんです。
これはどちらかというと作家性が強くて、
すごく乱暴に言うと、「ハイコンセプト」がハリウッド映画だとすると、
「ソフトストーリー」はフランス映画。
あるいは、「トランスフォーマー」と「アメリカンビューティー」みたいなことですかね?
アメリカ映画同士で言うと。
そういうもののリライトというのは実は「ハイコンセプト」のものよりも、
問題点を発見したり、直し方を見つけるのはすごく難しいんですよね。
宇多丸
やっぱり「ハイコンセプト」なものっていうのは、エンターテイメント映画。
それこそ一種黄金律にはめていけば、それなりに行くけれども。
三宅
ある程度には。
宇多丸
やっぱり作家性のものはいびつなところが良さだったりもしうるだろうし。
三宅
十分あり得ます。
「ソフトストーリー」でリライトが上手くいってない場合っていうのは、
やっぱり大体自意識が問題になってくるんですよね。
それでその作家さんの色が出てるんだけど何かおかしくなってるんだとしたら、
例えばどのト書きで気持ちの迷いが出たとか、
その迷いが第何稿目から出てきたのかとか、そこに対して本人が気づいてるかどうか?とか
そういう割とメンタルな部分を発見していく。
で、ご本人にしか書けない世界なので
そのご本人の・・、まぁ何て言うんですかね・・。
宇多丸
そうですよね。
その作家性が強いものを「こうだ!」「こうだ!」ってやっちゃあねぇ。
それこそその混沌を台無しにする事になりかねない。
三宅
そうなんですよ、まさにそうなんです!!
型にはめるとおかしくなってっちゃう。
なので、そこを僕は割と気をつけてやっていますかね。
宇多丸
日本映画だとね、そういうの多そうですよね。
やっぱ作家性の強い、そういうエンターテイメントの枠の方が弱ってる・・。
むしろそっちの方が多そうだけど・・。
三宅
はい、だからその人の良さを切らないようにその人の良いところを見つけていく。
宇多丸
でもそれってもうさ?
個々人の話を聞いて資質を見つめてあげて、
「どこで悩んでのかなぁ?」「自分でも気づいてないと思うけど、ここじゃないのかな?」
「この、ここんところでちょっとあれかな-、
プロデューサーの言うことちょっと気にし過ぎちゃったかな?」みたいな
そういうことを探ってあげるわけですよね?
三宅
そうですね、簡単に言うと。
まぁだからコミュニケーションレスがあるとしたら、プロデューサーと脚本家の間で。
その通訳的な役割になる時もありますね。
宇多丸
それって最早、脚本だけを見てストーリーとかプロットをみて、ここをなんとかじゃなくて
もう作り手と話し、コミュニケーションを取るのも大事だったりする?
三宅
ものすごい大事だと僕は思います!はい。
宇多丸
なんかイメージでさぁ、いきなりこうね脚本渡されて、
「はい、ここ駄目。」「はい、こうこう!こうこう!」ってやる感じを
イメージしがちな気もするんですけど。
三宅
それはまぁやって当たり前なところですね。
宇多丸
それはさっき言った最低ラインだけど。
そこを更に、その元のスタッフで良くするために・・。
三宅
というのは、シナリオって特にセリフがそうなんですけど。
すいません話の腰折って・・。
セリフってもうセンスなんですよね、はっきり言いうとその脚本家個人の。
で、そこが本人の自意識が邪魔してリライトが上手くいってない時って、
大体、説明セリフが多くなったりするんですよね。
説明セリフって映画にとってある程度必要なものだと思うんですけど。
「なんでここに説明セリフが出ちゃったんだろう?」って考えていくと、
たいてい構成に原因があるんですよ。
構成がある程度・・、構成を見ただけでストーリーが分かるように組まれていれば、
音を消してもある程度映画は見れるはずなんです。
そこにセリフが加わることで更に良くなって、その作家さんの味も出るって時に、
本人がこう混乱しちゃってる場合があるんですよね。
そうすると、脚本の中に出て来る登場人物も混乱しておかしな行動を取ったりする。
宇多丸
ましては観る人それ観たらねぇ。
作ってる人が混乱してるものをね、もちろん混乱しますよね。
だから、「これ混乱してるな!」って思ってるから、
「ちょっとここ説明しとくか!」って事になっちゃうっていうことですよね。
三宅
あるいは、何か違う事を考えて混乱にいってるのかもしれないので、
その脚本家さんの前の作品とか、あとその例えば第八稿が問題になってるのだとしたら、
だいたい八稿読んだ後に、「一個前の稿と初稿を下さい」って言うんですよ。
だいたい1個前の稿から突然飛躍しておかしくなったりするんですね。
だからそれと初稿を見ると問題点が見つかって、
いつ気持ちにブレが出たかっていうのは見つけられると思うんですけどね。
宇多丸
一個前の作品とかが次の作品に影響を与える場合ってどんな場合があるんですか?
三宅
例えば、初稿を良くするために直していって七稿までいくとしますよね?
で、七稿までいってると段々直しが細かい部分になってくると。
その時に「何か違う!何か違う!」みたいな時に「これ根本的に違うんじゃないか?」って
作家が思ってしまったり、プロデューサーが・・、まぁだいたい作家が思うんですけど。
それで、「こっちの水は甘いよ」っていう誘惑が作家の中で起きる場合があるんですよ。
その目に見えない悪魔のささやきみたいなのがあって。
で、この七稿までやったものじゃなくて別のアイデアが浮かんで、
それを足しちゃうことがあるんですよね。
そうすると、第八稿っていうのは七稿からはえらく様変わりした・・、
「あれ?一稿から七稿までやってたのは何だったんだろう?」っていうくらい変わっちゃう場合があるんですよ。
そういう場合は、七稿でもうあとちょっとでゴールが見えるところまで行ってるはずなんですよね。
なのでそれを見つけて初稿を見て、そもそもなんで七稿に迷いが起きるのか?っていうのまで
探っていくっていう事なんですけどね。
宇多丸
あのー、先程からお話し聞いてるとほとんど本当の医者っていうか・・、
人と人と対して何が悩みか?要するにカウンセラーというかほとんどその仕事に近い部分も・・。
三宅
あると思います。僕のやり方はですけどね。
もちろん「ハイコンセプト」を型で直していくのもやってますけど。
「ソフトストーリー」の場合はそれをやってたので、
カウンセリングの能力が必要だと思うんですよスクリプト・ドクターって。
宇多丸
いわゆるカウンセラーがやるような本当のカウンセリングに近いような能力が必要・・。
三宅
と思うんです。
なのでこの1年くらいあのカウンセリングの専門の教育を僕受けてて、
もうすぐ資格を取るんですけど。
やっぱりちょっとその心理カウンセリングとか認知行動療法とかいう要素が
多分シナリオのリライトに僕は必要なんじゃないかな?と思ってるんですよね。
宇多丸
すごいですよね!!
それこそさっき言った多くの人が僕も含めた人が持っているイメージで
何か黄金律にこうはめていったりとか、そっちに正しき方向に振れてくって考えがちだけど。
そっから大きく離れて完全に心の闇に入っていく・・。
結構危険な作業ですもんね。
三宅
そうなんです。
これプロファイリングみたいなところもあるんですよ。
宇多丸
それこそ脚本を一旦自分で書き直すっていうのは、
その人に成り代わってみるっていうことでもあるでしょうから。
そこでそれこそミイラ取りがミイラになっちゃったりとか・・。
三宅
そうなんです!
僕が冷静じゃなくなってしまったら、
リライトで迷ってる人がまた一人増えるっていうだけになっちゃう。
宇多丸
「おーい!医者用に医者をまた一人連れてこい!」みたいなものになりかねないから。
三宅
落語みたいなことになっちゃうから(笑)
宇多丸
というわけで、リライトとスクリプト・ドクターの違い分かったでしょうかね?
(続く)