2012年2月4日放送・サタデーナイトラボ
「最新USA HIPHOP特集」(中編)を起こします。
「宇多丸が聞く「音楽にお金を払う時代はもう終わり、なのか?~ヒップホップ最前線~」(1) の続きになります。
音声はこちらから
宇多丸
ということで、ミックステープというね、ヒップホップ文化特有の
非常に興味深い現象をみなさんお分かり頂けたのではないか?と思います。
えーそれではここからは第2部行ってみましょう。
第2部 「日本にもミックステープシーンはあるのか?」
宇多丸
さぁということでここからはラッパーのAKLOさんに
まさにその現役ラッパー、そしてそのミックステープシーンから出ていた立場として
実際にミックステープをどう活用したのか?というのかという話を
伺っていきたいと思います。
AKLO
よろしくお願いします。
宇多丸
それこそ僕の世代と全く構造が違う中からAKLOくんが出てきたわけで
ちょっと本当に僕も今がどうなっているのか興味があるので
あの、よろしくおねがいします。
AKLOくんの目刺しがなんか透明でね(笑)
目刺しの透明さに「大丈夫か!!」みたいな、
「俺、大丈夫か!」みたいな感じなんですけど、よろしくお願いします。
はい、まず何故ミックステープを活用しようと思ったか?というあたりを。
AKLO
そうですね、当時ですね自分がとにかくコネクションが無かったんですよ。
ずーっと東京でラップしてきたわけでもなくて結構転々とする家庭だったって事もあってですね。
宇多丸
地元が・・とかそういうのもないし。
AKLO
特にコネクションもないけど、ヒップホップはとにかく好きでっていう状況の中で
東京にですね来たんですよ。
で、東京に来た時に「どうやったら上手く存在するシーンの中で自分が食い込めるんだろう?」と
色々頑張ってみたんですけど、まぁどうも上手く繋がらないもどかしさがあって。
そうこうしているうちに結構時間が経ってしまっていたんですね。
「んー、どうしようどうしよう!」と思って、ちょっと歌詞とかも古くなってしまうし、
せっかく作った作品を上手いことどうにか出したいな!と。
だけど、他の人に頼るって言うことも出来ないしっていう感じでですね。
どうやったら自分一人で何かプロモーションというか、
「自分がラップこんなに出来るんですよ!」っていうことですよ!
そういうことがアピール出来るんだろう?と思った時に、
USでそういうフリーのミックステープっていう文化があるので、
日本ではどうなのかな?全然分からない状況でまぁとりあえずやってみよう!と
そういうゼロの状況から始めたんですけどね。
宇多丸
たぶんそれはだからあれだよね。
ヒップホップの特に東京に限らず日本のヒップホップ自体が
クラブ・・、イベントでさぁすごく盛り上がっている時期があって
そこがさぁ色んな意味でちょっと風通しが悪くなったのもあるし、
ちょっと前みたいにそこが社交場として完全に機能しなくなったのかな?
シーンの細分化し過ぎもあったりして。
ヤナタケ
そうですね。どうしても内輪ノリ感っていうか友達のっていうのがありましたからね。
宇多丸
どのイベントにもさ全部みんなが行ってある程度動向が分かってるみたいな時代が過ぎちゃって、
「たぶん上手いラッパーとか色々いるんだろうけど、俺よく分かんないだよね」
みたいな時代になっちゃったんだろうね。
これでもインターネットを活用するのは当然だよね。
AKLO
そうですね、それで皆さんがほとんどエロ本の様に使ってる(笑)
宇多丸
うん、あの機械を(笑)
「この機械、あれちょっと待てよ!使えるじゃないか!」って。
AKLO
でまぁそのPhotoshopでですねジャケを作り、
曲はもう出来上がっててですね、プレイリストとか
どうやったらダウンロードした時にタイトル出るの?とか
みんなに聞いたりとかして。
もう究極のインディペンデントですよ!ひとりみたいな。
もうそんな状態で、「これ試しにダウンロードしてみて?」みたいな。
「ちゃんと曲名出る?」とか、そういうことも確認しながら、
で、とりあえず誰も見ていなかった当時のブログがあるんですけど、
そこにとりあえずアップしたんですよ。
アップして放置してたんですよ。
誰か聞いてさえくれたら、絶対分かってくれると。
これは絶対聞いてくれたらどうにか拡がるんじゃないか?と勝手に希望を持つわけですよ。
もう何の根拠も無いんですよ。
宇多丸
まぁまぁでもその自信は絶対基本中の基本だろうからね。
AKLO
そういうしている間に、たまたまだと思うんですけど
その時にヒップホップのライターをしている微熱王子という方がいるんですけども。
彼がですねそのミックステープを奇跡的にダウンロードしまして。
宇多丸
色々探している中で「こんなんやってる奴いるぞ!」ってなったんですかね?
誰かから評判聞いたのか?
AKLO
でもその当時はもう全く評判になってないんですよ!
本当に不思議なんですけど(笑)
それで彼がそれを聞いてレビューを自分のサイトにあげてくれたんですよ。
全く無名の作品を。
で、そうするとですねかなり彼もそういうとこに有り付くくらいコアな方なので、
その周りにいる人たち、フォロワーというかそういう人たちもすごくコアで
そういうコアな人たちってすごく影響力を持つんですよ。
なので、そういうところから始まって
何のプロモーションもしていない状況っていうこともあって、
「みんなで広めよう!」みたいな。
宇多丸
ああそうか!「俺たちが広めてあげないと!これは!」と。
「すごい才能がいるぞよ!」と。
それこそ「微熱くんがこれだけ言ってるんだったら、聞いてみようかな?」
っていう気持ちになるし、
更にそっから古川さん(番組構成作家)がつったらすぐ広まっていきますよね。
中の人
僕も微熱くんのブログで知りました。宇多丸
ああそうですか、はいはいはい。
で、拡がってた?
AKLO
それでもうあっという間に拡がっていって、
それでもうあっという間に仕事とかもですね、増え始めて。
宇多丸
それはライブの依頼とかですか?
AKLO
ライブの依頼とかですね、あとFeaturingの依頼ですとか、
そういうことが実際に起こり始めたんですよ。
で、うわーやっぱり・・なんだろう・・?
まぁ「良かったな!」ということと、それでそう・・何て言うんでしょうね?
それは完全に上手くいったパターンですけどね。
宇多丸
すごく本当にとんとん拍子でね。
だってそのブログに置いといてね・・置いといたわけでしょ!
置いといて待ってるいうね(笑)
「良く流行ったねこのお店」ってことだけど。
AKLO
でもそれはですね、
なんかそのまったく日本にフリーミックステープ文化が無かったということがあるんですよ。
宇多丸
あ、やっぱりAKLOくんが見よう見まねというか試行錯誤しながらやったけど、
それまではなかったと、USでは盛り上がっていたけど。
AKLO
ほとんどそうやって発表しているアーティストがいないという状態だったんで。
宇多丸
それは何でだろうね?
それこそエロ本で使ってる機械はさ、スゲー便利じゃん!
俺もし、そういう手かわかんないけど。
もし自分が若手で全く売り出す手段もない、分かってもらえてないのが
問題だと思ってるんならインターネット100%使うよね。
ヤナタケ
そういうかたちに気づいたのが早かったってことですよね。
今だったらそう思うかも知れないけれど、何年も前の話なので。
宇多丸
ちなみにAKLOくんその自分の最初の作品をミックステープ形式で
出したのは何年くらいの話ですか?
AKLO
一番最初は、2009年。
宇多丸
2009年の時点ではじゃあUSのシーンとかの・・。
ヤナタケ
まださっきみたいなまとまったサイトもそんなに流行ってなかったし。
渡辺
でもそうですね。
ドレイクのさっきのヒット曲は2009年の曲なので、本当に同時進行くらいで。
宇多丸
ああ、なるほどなるほど。
そうかそうかでも先駆者としてある意味上手くいったって事かな?
AKLO
そうですね、それはありますね。
ですぐに、それがすぐに広まったというのもあって
すごい嬉しかったという気持ちが何よりあって、
その4ヶ月後に次のミックステープを出すんですよ。
もうその制作意欲がすごく湧いてしまって!
宇多丸
今まで何年も出してもどこにも届いてない感があったのが、いきなりこれだもんね!
AKLO
そうですね、それでその「インターネットを活用したラッパー」みたいな。
「だけど、ずっとオタクなラッパーではない路線のラッパーが
インターネットを活用した」みたいな。
宇多丸
そうだよね、いわゆるオタクラッパーで家から一歩も出ないでやりました・・、
まぁそういう人が居ても良いけど、じゃなくて別に現場でもばっちりやるしっていう事ですよね。
AKLO
そういうスタンスでいたので、
その時、スピード感・・、さっきのリル・ウェインとかもそうだったので、
スピードとかも意識したし、インターネットっていうこととかも、
もっとスマートに使おう!っていう事も
テーマにしたミックステープ「2.0」というミックステープをすぐにリリース
出来るだけ早くリリースしようと思ってリリースしたっていうこともあって、
また更に、一度やっぱり話題になって更に出ると、それはまた倍、倍、倍という感じですね。
宇多丸
その評判がネット上のスピードで火が消えないうちに、
また火を足していくというか、火を大きくしていくのが必要なんですかな?
それやだね!ネットのスピード感、嫌だなおじさん!おじさん面倒くさいな!
毎週ね、それこそこの番組でも何かしらの波風立てるようなアクションを
してるのにも近いかもしれないですけどね、なるほど。
今でもAKLOくんがそれで成功したということのを受けて、
結構やる人は増えたの?その後は。
AKLO
その頃に同じ時期に出来たサイトで「JPRAP.COM」っていうサイトがあるんですけども、
そこでフリーの作品をメインにしたアーカイブサイトというか、
ずっとそこでフリーの作品をアーカイブし続けるというサイトがあるんですけど、
そこでのミックステープとかの量って圧倒的に増えて、
今本当に、まぁ単曲もありますけど、フリーのミックステープ単位で出すアーティストも
非常に増えているという状況です。
宇多丸
これでもさ、言っとかなきゃ行けないのがさぁ
まずAKLOくんが成功したのは、もちろんいち早くこの形態を
ミックステープという最新のUSの形を取り入れたのもあるけど、
大前提として「あなたラップ死ぬほど上手いからね!」っていう(笑)
ヤナタケ
まぁ間違いないですね!
渡辺
基本ですね。
宇多丸
それ大基本だけどね。
駄目な人がいくら形式として最先端をやっても
それはジャッジされちゃうってことじゃない?余計に。
えーということで、ちなみに仕事も良い感じでライブとかfeaturingとかも増えてきたけど、
ミックスCDそのものはタダでやってるわけでしょ?
まず!困りますよ、その件!!タダで!!
タダであんなクオリティのものを配られちゃ、本当に困るよなー(笑)
ぐらいに思う素晴らしいあれなんだけど、
お金っていうか、仕事っていうか、ビジネスっていうかね、
自分のちゃんと生活と次の創作に回していくようなサイクルになってるの?
AKLO
そのミックステープ自体からは全くお金を生まないので、
いくらダウンロードされても何にお金も入ってこないわけですよ、それは。
そこに関しては全くないんですけども、そのミックステープのおかげで
一緒に作品を作りたい!とか、次の契約が決まってアルバムを制作していたりとか、
あとKREVAさんとかそういうメジャーなアーティストからのfeaturingオファー
そういうこととかあって、今は次のアルバムに向けて
かなり本当に素晴らしいずっと夢見てたようなメンバーで作れてる状態なので
そこに関してドリームがあるかないか?で言えば
ドリームはあるとは思うんですけれども。
宇多丸
ドリームあるでしょ、それは!
ヤナタケ
一つね、補足したいんですけど。
ミックステープ出したのは、2009年と2010年なんです、AKLOは。
で、2011年はミックステープ出してないし、アルバムも出してないんです。
いわゆるその客演仕事、その評判を生んだfeaturingの仕事がいっぱい来て
そのfeaturingの仕事の内容だけで雑誌「WOOFIN'」の
WOOFIN’アワード2011のベストアーティストに選ばれる。
宇多丸
まさにさっきのドレイクじゃないけど、CD1枚も出してない状態でっていうことだよね?
ヤナタケ
それがすごい現代のアーティストっぽいなっていうね。
宇多丸
いやでもそれはすごく、全くもって500%いいことだと思いますよ。
それこそさぁ。先輩というかそういう立場からして
そういう才能ある子がさぁ、コネがないからブレイク出来ないっていう
不満を溜め込まれてもさぁ!
そりゃこっちだってブレイクして欲しいけどさぁ!
うん、あるから。すごく喜ばしい事だと思ってます。
このミックステープシーン的な日本に限ってでもいいですけど、
AKLOくん的にどういう感じになっていくか?
AKLO
そうですね、あの元々ミックスでもテープでもなくなってしまった
ミックステープなんですけども、
自分が行っていたのがビートジャックで、
その当時はビートも買うことも出来なかったわけですから。
宇多丸
要するに人の曲を・・。
AKLO
人の曲のインストゥルメンタルに自分のラップを乗せると。
宇多丸
でもそれをやることのメリットは当然あるよね?
人の曲を使ってる、要するに皆が知ってるトラックの上で乗せたりすると、
例えばスキルが、その人のラップの上手さが際立ちやすいとか。
色んな問題あるよね?
AKLO
なので、そういうことかとも・・。
あと日本語バージョンだ!っていうところもありますよね?
全部USのビートのジャックだったりしちゃうので。
宇多丸
なるほど、USの最新のビートに乗せても聞き劣りしない日本語ラップだぞ!
みたいなこともアピール出来るもんね。
AKLO
そういうことも出来るので、
そういうミックステープのかたちが主流になっていけば、
コストもかからないし、面白いだろうとか思っていたんですけど。
そんな僕の気持ちを全く無視してですね。
日本のヒップホップラップシーンは結構、オリジナル音源
やっぱラッパーがハングリーな分、トラックメイカーもやっぱりそりゃね。
宇多丸
「俺のビートを聞いてくれ!」も当然あるから。
AKLO
それもあるんですよ。
なのでそこがインターネット時代でtwitterでつながってしまった日には、
もう作れちゃうわけですよ、オリジナル音源が。
宇多丸
もうだからオリジナルアルバムがばっこんばっこん出ちゃう勢いになっちゃう。
いやーん(笑)
まぁでも良いよね?聞く側からしてみればタダで聞けるし。
AKLO
そうですね、それがチャンスでまた何かね契約とかがもし決まれば最高じゃないですか!
まぁでも!みたいな・・感覚ではあるんですけど、
そういうふうに日本のヒップホップ進化もミックスとかジャックとかそういう事よりも、
もう結構そういうオリジナルビート、オリジナルラップでという
そういった方向性に行っているんですけども。
何よりもやっぱり便利になって行っていると思うんですよ。
僕なんか最初はZIPファイルをアップしてダウンロードして解凍して
それと突っ込まないといけないだったんですけど、
それが今はストリーミング出来ないとやっぱり難しくなってきてるんですよ。
すぐその場でブラウザで聞けたり。
そうやってやっぱり進化はもうずっとし続けているので、
とにかく便利にすぐ聞けるっていうそういう方向に
ミックステープは進化していくんじゃないかな?と思っております。
宇多丸
でも超いいことと思いますよ。
すごい新しい才能を見つけようと思えば思うほど、
昔はさ、おっかないクラブ行って夜中の3時のライブを待たないと行けないとかさ(笑)
それも当たりかどうかわかんないし、なんてのを
普通の人に勧めようが無いじゃん!そんなの。
だから例えば今これ聞いてる人で興味持った人が
いきなり最先端の才能に触れられるわけだから、
これは活用しない手は無いと思いますよ、いくらおじさんが困っても関係ありません!
ということで、AKLOの曲なんか聴いてみましょうか?
AKLO
え、はいじゃあ当時自分がなかなかこうシーンに食い込めない頃の
自分のパソコンの中にある音源をどうしたら誰かに聞いてもらえるんだろう?とか
そういうですね事を考えてた時の心境を歌ってる歌で「CHANCE」っていう歌です。
AKLOで「CHANCE」聞いて下さい。
(中略)
宇多丸
AKLOくんの「CHANCE」という曲を聴いてもらってますが、
一連のミックステープアルバムというかは、
今でもこの曲も含めてフリーダウンロード出来るんですよね?
AKLO
出来ます!
「AKLO」で検索すれば、すぐ「TOGARI」っていうブログが出て来るんですけども、
そこの右側に未だにダウンロード出来る・・ジャケットがあるので、
それをクリックすればダウンロード画面に移れます。
そこですぐダウンロード出来るので。
宇多丸
これ本当びっくりしちゃうのよね。
そのジャケがあってさか、曲もズラーッと並んでて、
で、ダウンロードだって一瞬じゃん。
「いいのかな?」って本当に思うくらい(笑)
で、中身のクオリティもとんでもないことになってるから。
ヤナタケ
まずでもやったことない人はやってみて欲しいですよね。
その感じを体感して欲しい。
宇多丸
これで、ホイホイこのレベルのものが
ものすごいペースであちこちから出てたら
そりゃーあなた!他のもの聞いてる暇なくなりますよ!っていう
感じだと思うわ。
ということで第2部、AKLOさんありがとうございました。
(3)に続く