今回は、2012年5月18日放送 荒川強啓デイ・キャッチ!
「デイキャッチャーズ・ボイス」宮台真司さんの回を起こします。
音声はこちらから
宮台
先日のニュースですけどね、
九州大学で『婚学』の講座がね、開講されているんです。
これ毎日開講なんですけれどもね、
1年生を対象にした教養セミナーで。
受講生は男子16人・女子13人合わせて29人で
募集に対しては150人が申し込んむということで
倍率は5倍ということなんですよね。
強啓
これは単位取れるんだ!ほー。
えっ?2単位?あーそうなの。
宮台
昔から東京大学などでも自主講座っていうのがあったりしましたけど。
まぁ単位が取れる自主的な取り組みということですよね。
だから、カリキュラム外ということなんですけれどもね、
こういうのがあるということですよね。
強啓
結婚する学問か?どんな事するんですかね?
宮台
えーとですね、どっかに資料が有ったと思うんですが。
まぁそんなにすごい事やってるんじゃないんですよ。
まずですね、具体的には人生哲学を教えていて、
恋愛・結婚・出産・子育てがどういう意味で大切なのか?という事を
ディスカッションベースで理解していくという事なんですよね。
更に、まぁサラリーマンとかNPOや、別の大学の教授とか
色んな社会人も呼んで話を聞くという事になっているんだそうでありますよね。
学生の反応は非常に良く、
講義の感想はfacebook上で投稿してもらっているそうですが、
例えばですね、そのディスカッションのテーマとして
「バスタオルは一度使ったら、洗うか?何度か使ってから洗うか?」みたいに
新婚の時にぶつかるであろうテーマについて話し合ってるそうです。
強啓
ちょ、ちょ、ちょっと待って!!ちょっと待って!
そんなの学問のゼミの中で出て来る話なんですか?
宮台
ええ、そうなんです。
それでですね、学生がどんなふうに感想を言っているかというと。
「価値観の違いで、もしかしたら生まれない可能性だってある溝を
『婚学』を通じてあらかじめ知っておけば、なんとかなるんじゃないか?」
というふうに仰ってるということでですね。
これを教えてらっしゃるのは佐藤剛史さんという助教の方でありまして、
教員になりたくて福岡教育大学を受けたんですけれども、
なかなか受からずって時に九州大学で教えるチャンスを
非常勤として持っていて、こういう講座をやっているという事なんです。
さて、たっぷり喋ることがありますが。
『婚学』には賛成ですが、この程度のものじゃ足りないんですね。
どこで足りないか?ということを申し上げる前にまず、
株価を下げたニュースが有りましたよね?
この背景にあるヨーロッパの事情を話をしますと、
今ですね、政治哲学や社会学の最先端でよく分かっていることが、
「グローバル化」と「民主主義」が両立しなくなってるということなんですね。
「グローバル化」をすると、緊縮財政をしなきゃいけないんです。
しかしそうすると、緊縮財政に反対する世論が大きな政府を要求する。
そういう政治家に投票してしまうわけです。
そういう人が大統領になったり、政権を組んだりすると、
当然ながら、信用不安が再燃どころか加速してですね。
実はその国自体も含めて、ものすごい勢いで沈下していくことが
ほぼ確実だというふうにも思えますね。
例外が唯一あるのがドイツですよね。
ドイツはどうして沈まないのか?ヨーロッパを牽引しているのか?というと。
10年ちょっと前のシュレーダー政権の時にですね、
労働法制を完全に変えて「ワークシェア」を完全に進めているんですね。
フォルクスワーゲンがとても収益があるということで、
賃上げを労働組合に提示したところ、
労働組合は「要りません!その分、労働時間を短縮して下さい」ということで
1,400時間です、ドイツの労働時間は。
フォルクスワーゲンなどはそれを切るところまで来ているということなんですよね。
逆に言うと、その他の国々ギリシャでもスペインでもフランスでも
労働組合が実はがっちりポストを握っちゃって。
その結果、格差がバンバン拡がっちゃうんですね。
これらの国は「サンディカリズム」と言いますけど、
労働組合運動がとても強いところです。
ドイツは、「サンディカリズム」の伝統が無いかわりに、
同業者組合の伝統、「コーポラティズム」の伝統があるので、
「ワークシェア」に向いていたんですね。
さて、これを背景にいうと。
もう一度申しますと、緊縮財政は不可避で、
大きな政府を作ろうとしたら必ず信用不安を招きます。
日本は、近い将来必ずそれが起こりますよね。
だから「グローバル化」の下で緊縮財政は不可避ですから、
皆さんいま政府に頼っている様々な便益の供給をどこからか
調達しなきゃいけないんですね。
それは地域だったり、家族・親族ネットワークだったり、
あるいは、宗教的なアソシエーションだったり、色々あるでしょうけども。
しかし皆それを今考えているだろうか?ということですよね。
日本では、頼りになる宗教的なアソシエーションはさしてありません。
地域ももう空洞化して、本当に40年、50年という歴史があります。
おそらく情緒的な結びつきによって支えられた家族以外に、
当面は相互扶助のコントロール可能で信頼出来るような
受け皿はないだろうということから、
「結婚」のことを考えるしかないのです。
強啓
わかりにくーーー。
すっごい、あんな向こうから婚活に持ってきたよ、今。
宮台
そうなんです、だからね。
「結婚」のことを、「いや自由でいたいから、独り身で結構いいんだ!」ってね
生半可なことを考えてるとですね、社会によって寝首かかれます。
僕はですね、1990年代前半にナンパ師たちをたくさん取材していました。
当時に、年長のナンパ師はまぁ50歳。僕ぐらいだったりするわけだよね。
でもうそれから15年経ってね、多くの人がハートアタックっていうか、
心臓発作になっちゃったりとか、脳梗塞になっちゃったりとかしてね。
体が不自由になっちゃうんですよ。
その時に頼れる家族を持っていないわけ。
僕も述懐されちゃうわけですよ、
「いやー、こういうふうになると思ってなかったよ」
そうです、皆さんね自分がいい時しか考えていないんですよ。
しかしこの考え方もミスリードがあって、
いざっていう時にセーフティネットが必要だから家族を作る、これも実は間違いで。
簡単に言えば、「絆」はタダ乗り出来ないんですね。
「家族を作りたい」というのは、自分が生き甲斐なのは「人を助けることだ」と。
絆を作って自分がセーフティネットにあずかるんじゃなくてね。
自分がセーフティネットを作って、自分の愛する者たちを助けるんだっていうところに
実は「絆」づくりのポイントはあるんだ!っていうことが
わかっていないと実はフリーライダーばっかり増えて、
「絆」は一向に出来上がらない、みたいなことがね。
まず、最初の概論で教えられなければいけませんが!
ちょっとそこまでは教えられてはいないようですね。見るところね。
強啓
ということは・・「婚学」というのは、
つまり「絆づくり」の、自分はどういうポジションにいるか・・
宮台
そう、社会がどうなっているので
「絆」がどういう意味で必要で・・
強啓
それで自分はそこにどこに組み込むのか・・?
宮台
社会はいいとこ取りが出来ないのでね。
「絆」っていうのは元々、作られ方や維持のされ方がほぼ定番で決まっているので、
それを無視してね、自分自身で思いつきで何とかやろうとおもってもどうにもなりません。
強啓
例えば、具体的にどう?
例えばここに杉浦舞さんという素敵な女性がいる、独身だとして。
宮台さんも独身だとして?
宮台
あの、バスタオルを洗う・洗わないとかってね、はっきり言ってどうでもいいです!
それは後でちょっと説明しましょう。
これ僕もね、この絆形成を巡るビジネスモデルが成り立たないか?っていうことを
今ちょっと色んな事業者と一緒に研究をしているところなんです。
で、その時にポイントになるのは、
従来のマッチングサービスでは話にならないということなんですよ。
わかります?マッチングというはいくらでも出来ますよ。
しかし続かないんわけ、「絆」がないからね。
結婚してもあっという間に分かれちゃったりするわけ。
例えば、少子化の下でノイズ耐性が無いでしょ?
あるいは色んな意味で寛容性を欠いているわけ、共同性の空洞化を生きてるからね。
そうするとね、一つ屋根の下で趣味が違う・思考が違う。
場合に寄っちゃ歯ぎしりするかもしれない、オナラをするかもしれない。
そういう人間とね暮らすのって難しくなっちゃうわけですよ。
わかります?そういう問題があるわけね。
だからマッチングじゃなくて、むしろ相手を見つけた後、
「どうすれば絆が作られるのか?」「どうすれば寛容になれるのか?」
「どうすればノイズ耐性が出来るのか?」っていう事が最大のポイントなんです。
強啓
どうすればいいんですか?
宮台
それはね、概念的に「寛容になれ!」って言っても全然ダメ!!
そこはね、ワークショップが必要なんですよ。
ワークショップっていうのは、元々の意味は
「体験を通じた成長を学びとするためのグループワーク」ということなんですね。
強啓
教えてもらうんじゃなくてね。
その中に組み込まれていかなきゃいけないわけだからね。
宮台
組み込まれてやってみて、「俺は出来るじゃないか!」と思って
更に次のことをやってみて、「あ!これも出来るじゃないか!」って。
色んな事が出来るという今まで知らなかったことがどんどん体験されて、
その体験あるいは認知のフレームも変わっていく。
それがまた新しい行動にも結びついていってっていう
循環を回すって事なんですよね。
強啓
それはね、両親の動きとか見てれば分かることじゃないですか。
宮台
でも分からないんですよ、今。
何故か?というと両親の「絆」が無いから。
強啓
そんな事ないよ-。
宮台
ところが違うんですよ。
僕は統計的にこれを調べているんですよね。
両親が愛し合っていると答える学生たち、これは数は多くないんだけども。
そう答える学生たちはね、恋人いる割合っていうのが多くて、性体験の人数が少ないんです。
逆に、「両親を愛し合ってないと思う」・・これがむしろ多数派ですけど・・
強啓
じゃあその「絆づくり」のワークショップって場所が無いじゃないですか!
宮台
だから今は無いんですよ!
でもね、そこにいま場所を提供していかないと、つまり「場」を提供していかないとね。
マッチングサービス・お見合いサービスいくらやってもね、全然ダメなんです。
強啓
それは、ワークショップにならないもんね。
宮台
ならないし、つまり簡単に言えば
より円滑で実りのある充実した濃い関係を継続するには何の役にも立たないわけ。
強啓
どうすりゃいいんだろう?
宮台さんのご夫婦を下宿して見せて頂くっていうのは?
宮台
はぁ?そんなことはまぁいいとしてですね。
でも今おっしゃったことはちょっと大事で。
僕らの時はね、ロールモデルとしての夫婦っていろんなところにあったんですよ。
それはまだ地域社会があったからなんですけどね。
今やっぱり、夫婦がどういうふうに暮らせばいいのか?っていうのが分からない。
子育てどうすればいいのか?ってことが分からないっていうところから、
大阪市議会の維新の会が条例案出してきたりしましたけどね。
これは非常に重要なポイントを突いてはいるわけ。
体験を通じて学ぶ機会がないから、
子育ての意味も夫婦の意味も分からない。
概念的に意味がわらないだけじゃなくて、経験値が低いので、
何か難局に立ち入った時にそれを乗り越える力が全く存在しない。
強啓
そこまで分かったんだけど。
だからどうしたらいいの!ということ
宮台
だからワークショップです。
強啓
だからワークショップの「場」が無いでしょ!
宮台
ワークショップの「場」これから僕が作る。
作るためのいま研究をしてるんです。
で、実際に使える人材がどれだけいるのか?ってことを色々探っています。
使える人材はものすごく少ないです。
実際そういうことを単に概念的に教えることが出来るだけじゃなくて、
ワークショップを組織して・・・
強啓
だって体験するんですよ?
宮台
そうです。
それはね、パンツ・バスタオル色んな問題有りますよ。
その時にね「キャラ化」って大事なんですよ。
ニコラス・ルーマンっていう人が「家族って何か?」っていうとね、
「まぁパパったら!」っていいですか?
整理整頓の出来る奥さんと整理整頓の出来ない旦那さん、よくあるじゃないですか?
その時にそれでね、「性格の不一致」とか言う馬鹿はいますか?そうじゃないよ!
「またパパったら、掃除した隅にゴミが残ってるじゃないの!」「もうパパったら!」
これは齟齬じゃないんですよ?わかります?
「またお兄ちゃんったら!」「お姉ちゃんったら!」「パパったら!」「ママったら!」
というふうにして実はメタ的にコミュニケーションして承認していくっていうのも、
非常に重要な日本的工夫ですよね。
(了)
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