今回は、2013年5月29日放送
「伊集院光の週末TSUTAYAに行ってこれ借りよう」
映画衣装デザイナー・黒沢和子さんの回を
起こしたいと思います。
伊集院光(以下、伊集院)
今回のゲストは、映画衣装デザイナーの黒澤和子さんです。
よろしくお願いします。
黒澤和子(以下、黒澤)
はじめまして。
よろしくお願いします。
伊集院
もうスタジオ入りした途端に質問攻めにしようとして
「あのー、回そう回そう」なんつって。
小林悠アナ
慌てて(笑)
伊集院
何よりね、衣装デザイナーとしてのお話も聞きたいですけど、
切れないのはお父様がかの黒澤ですから。
そのお話から、もう恥も外聞もなく始めさせてもらいますよ。
黒澤
あ、もうどうぞどうぞ。
しょうがいですね、DNAがつながっちゃってるので(笑)
伊集院
あの、黒澤の娘であることのメリットとデメリット
教えてほしいんですよ。
黒澤
まぁかなり・・8割くらいはデメリットですよね(笑)
伊集院
そうですか、やっぱり。
黒澤
そうですね、うちの父ってイメージだと
すごいなんか硬い感じの人ですけど・・
伊集院
厳しい感じの。
黒澤
ものすごく博愛主義っていうか、何でもカモンっていう感じで
すごく明るい人だったんですよね。
だからすごく「人間を好き」っていうようなところは
受け継いでいるので、それはメリットだと思うのと。
で、もう1つは、もう本当に赤ん坊ぐらい手のかかる人だったんですよね。
何にも出来ないし・・。
伊集院
映画以外は何にも出来ない!?
黒澤
何にも出来ない人です。
あのもう本当に電話も掛けられないし。
その上、1日に何十人もお客さんを連れて来て
店屋物も外食も嫌っていう人なんで、ものすごい手がかかったんですよね。
だからその・・「若いころに苦労をしろ」って昔から言いますけど、
すごい量の労働を私はしているのでそのちょっとやそっとのことが何ともないっていうのは
また1つのメリットですよね。
伊集院
もう小さい時から「黒澤番」として鍛えられるっていう(笑)
黒澤
そうなんですよね。あとはデメリットはもう数限りなくあって。
その世の中の作り上げた「黒澤明」像から私を見ているので
最初からすっごい怖がられて、なんかもう話が変になっちゃうんですよね。
映画っていうのは常に新しいチームに入っていくので
「私はそうじゃないよ!」っていうのをまずアピールしないと(笑)
伊集院
だって、僕らの中でもそれを消して話を聞くことが出来なくて
その1個1個の答えに対して「黒澤明の娘にしては・・」とか
「だから・・」とか思っちゃいますもんね。
黒澤
そうなんですよね、だから裏表が無くて開けっ広げっていうところが
うちの父の私は大好きだったとこなんで、
私ももうそう生きるしかないやっていうふうに思って生きてますけど・・
伊集院
ご自分のスタッフとして衣装デザインをやるときに
黒澤監督からの「この人は細かいことを言うなぁ・・」
「無理難題来るなぁ」っていうのはありました?
黒澤
うちの父は細かくは無いんですよね。
すごくイメージがはっきりしてて、
こういう絵にしたいっていうことを言われるんで
もう本当に上手くいった途端にバラ色になってヒャーっていう感じで喜ぶし、
すごく褒めるし、自分の映画で「声が入るよ」っていうのに笑っちゃったり。
なんかもう嬉しくなっちゃって乗り出しちゃったりしていて
もう本当に子どもみたいだったんですよね。
だからそういうところがスタッフとか俳優さんがついてきて下さったんじゃないかな?
ただ、娘に対してはすごいぞんざいで、他のスタッフにはもって丁寧に教えるんですけど、
同じ飯食って同じ屋根の下に住んでんだから
言わなくても分かるだろみたいな感じだったんですよね。
だからなんか紺色の衣装なのに、グリーンで書いてあって
「こんなグリーンなのってあるわけないじゃない」って言ったら
「あんなものは想像すりゃわかるだろ」みたいな感じで・・
伊集院
「俺がこんな感じでグリーンで書いてる時には『紺』だろ!」みたいな
意味の分かんねぇやつが!!
黒澤
それで普段ももう、私は「食事番」だったんですけど
メニューと同じでずっと一緒にいて同じものを食べてるから
今日何が食べたい感じかは分かるだろっていうことを映画の中でも求められたんで。
伊集院
はあああああああ。
それは厳しくて嬉しい話じゃないですか?だけど。
黒澤
そうですね、だから似てるは似てるんですよ。
うちの母がすごく苦々しい顔で「もうあんたはパパにそっくり!」っていう
嫌そうな顔をしていたので、それは楽は楽でしたよね。
伊集院
ましてや、これは我々のイメージの先入観もあるんですけど
その監督に合わせられた人だから、他の現場に行っても
そりゃ洞察力は磨かれるでしょうからねぇ・・。
黒澤
いやだから本当に子どものときから何にも言わないで「やれ!」ってずっと言われ続けたので、
それはものすごくいろんな監督とやらして頂いたときに
その普段来てらっしゃるもの見たり、そのお話の口調とかでも
例えば、「これはちょっと品のいい感じにしてね」って言っても
A監督とB監督とC監督ではその「品のいい感じ」が違うっていうようなところっていうのは
上手くは説明できないんですけど、それをまた読み取るっていうのがまたワクワクしちゃうし。
伊集院
なんか最初に軽はずみに「メリット・デメリット」って聞いたけど
メリットがデメリットでデメリットがメリットみたいな。
お父ちゃんが分かりにくいことはデメリットかもしれないけど
そこで得た能力はもうメリット以外の何物でもないし。
黒澤
もう本当にだから人生って面白いんじゃないかなって(笑)
伊集院
そんな黒沢和子さんの選ぶ今回の「週末これ借りよう作品」なんですが
僕らは黒澤映画かな?と思ったんですけど。
黒澤
私はもういろんなところから取材が来るんですけど、
日本映画に関しては一切私はコメントしないし、ランキングもしないし、
自分の生業なのでそういうことに対していろいろ言うのは
おこがましいし失礼だなと思うので
本当に海外の作品に限らせて頂いているんです。
伊集院
さぁ海外の作品から何になりますか?
黒澤
えーと、「カッコーの巣の上で」っていう
伊集院
僕らはいつもお叱りを受けるのは、
「その程度の映画知識のやつが映画の番組をやっていいのか?」って言われるんですけど
何度も人の口からはこのタイトル聞きます。
でもっと言えば、「まるで『カッコーの巣の上で』じゃないか!」というような
表現すら聞いたことあるのに、「ですね」なんつって(笑)
細かく観たことは実は無いんですけど。
1976年公開でジャック・ニコルソン主演、アメリカ映画。
これを機会に私も観て参りますので、3つおすすめポイントを頂きたいんですが。
黒澤
そうですね・・まぁともかく何年にも渡ってアメリカの演技として
素晴らしかったっていうことのアンケートを取ると、
いつも入ってくる作品。
伊集院
演技が素晴らしいっていうのは、いろんな人に映画を紹介してもらって
そういう話になればなるほど分からないんですけど。
「演技すごいね」って言われること、まぁ衣装も通じると思うんですけど
「衣装すごいね」って言われることは立ってるじゃないですか?すごく。
立っていいのか?みたいな・・
黒澤
だからその衣装の場合はね、そういうアートな感じの作品であれば
「衣装すごいね」って言っても受け取れるんですけど。
「観る暇がなかった」とか「気になんなかった」って言われると
私はすごい嬉しいんですよね。
伊集院
それこそ「面白い映画だったんですけど、
最後クレジット見たら和子さん衣装やってるんですね。」
みたいなのが一番嬉しい・・
なんですかね、名優の人がいっぱいいて
演技の上手い人がいっぱいいて、それですごい監督がいて
すごい脚本があって、この番組に来たゲストの一人も言ってたんですけど
なんかそれでも更にその上の奇跡みたいなものがあると。
黒澤
そんなに有名じゃない方がいっぱい出てるんですけれども、
脚本があって監督があってそれぞれのキャラクターが本当に
キチッと描かれてるっていうね。
そういう意味で名演技な人ばっかり集まってしまっているので
ちょっと息つく暇が無いっていうところがひとつですかね。
伊集院
じゃあ2つ目のポイントを今度よろしいですか?
黒澤
あとはやっぱりその、なんていうのかな?
自由って何なのかな?みたいな、人間ってそんなに決めつけていいのかな?
とかっていうのは私はいつも感じていることで
うちの父もそうだったんですけど、
人間って全員違うから素晴らしいっていうのが
すごく黒澤家はそれが当たり前なんですよね。
だからなんかそういう部分ので好きだったですね。
伊集院
おおまかなストーリーみたいなのを頂いてるんですけど
精神の状態が良くなくて刑務所での強制労働を免れることが出来た
主人公が冷徹な婦長と戦いながら病院から患者の自由を勝ち取ろうと試みる物語
っていうざっとした訳になってるんですけど、
この中に今言った自由の要素どう組み込まれてるんですかね?
これだけ読むと、「なるほど婦長が悪者だな」なんていう
感じになるんだけど、そういう一筋縄にはいかないもんなんですよね。
3つ目何ですか?
黒澤
3つ目はやっぱりうちの父もすごいこの映画が好きだったんですね。
でそのジャック・ニコルソンさんとアカデミーとかでお会いすると、
「着てるスーツが素晴らしいね」とかって言ってきて毎回その話になるんですよ(笑)
「どこで作ったんだ?」みたいな(笑)
伊集院
へー、お父様と一緒にほかの監督の作品を観ることって
割と多かったですか?
黒澤
多いですね、本人のも一緒に観ましたし。
だからうちの父の作品だと裏話がいっぱい聞けますし、
例えば「ゴジラ」の本多猪四郎監督が俳優さんの代わりに
歩くのが上手かったからここは歩いているとか。
そういう裏話とか雨の降らし方とか、具体論しかしゃべんない人なんで。
伊集院
今で言うDVDに入ってるさ、オーディオコメンタリーみたいなのを
「このシーンはこうだ」の黒澤明バージョンがそこには存在するわけですもんね(笑)
黒澤
例えば、何千万かけて作った美術とかシチュエーションでも
「これ止めよう」って切っちゃう人なんで、
それは人様の目に触れてない部分もありますよね。
あと、人の作品をけなすってことが無いんですよね。
やっぱり認めなきゃ誰も素晴らしくはなれないからって
いろんな評論家の人はボロクソに言う人もいるじゃないですか?そうするとうちの父は、
「まぁ評論家はけなさないとご飯食べられないからしょうがないんじゃない」っていう
まぁそういう感じの人でしたから。
伊集院
だからそこに関しても分け隔てが無いんでしょうね。
良いか?悪いか?必要か?必要で無いか?ってことなんでしょうね。
黒澤
普段から年齢とか性別とかそれぞれの職種とか全く関係の無い人なんで
好きか嫌いかなんですよね。
伊集院
いやちょっとこの映画を先入観無しに観てきます。
「どうやらいいらしい」くらいで観て参りますので。
(了)