今回は2014年5月6日放送「荻上チキ Session-22」
「セッション袋とじ」加藤一二三さんの回を
起こしたいと思います。
南部広美(以下、南部)
では早速なんですがプロフィールを
紹介させていただきましょう。
加藤一二三さん1940年生まれで74歳でいらっしゃいます。
福岡県ご出身の将棋棋士。1954年の8月に史上最年少の14歳7ヶ月で
4段に昇段し、プロ棋士となりました。
1958年に18歳にA級8段に昇段するという偉業を成し遂げ、
「神武以来の天才」と呼ばれてるんですね。
1968年に10段戦で大山康晴棋士を下し、初のタイトルを獲得
その後も名人・王位・棋王・王将など数々のタイトルを獲得
公式戦通算対局数は歴代1位、勝利数も現役最多・歴代でも2位
そして最多敗戦記録も歴代1位という数々の記録・タイトルをもった
将棋界のレジェンドです。
またそのキャラクターから最近ではバラエティ番組にも出演するなど
幅広く活躍されています。
先日には現役生活60周年を記念して宝島社から新書
「負けて強くなる 通算1100敗から学んだ直感精読の心得」
を出版されました。
荻上チキ(以下、荻上)
これ拝読させて頂きました。
負けることが怖くなくなりました。
負けることではなくて、負けてそれを気にして
戦うことを止めることをむしろ恐れるべきなんだなというような・・
加藤一二三(以下、加藤)
そうですね、まあ実際に大きな勝負で負けた直後に自信が湧いてきて
今はその自信が実際に実現したというのがかなりありまして
勝って自信が出てくるというのことはあまりないんですよ。
実際に勝って大きな自信が湧いてくるということはないんですけども、
大きな勝負に負けた直後にフッと浮かんできて
「今回は負けたけれども、次は絶対勝てるぞ」という予感がしたことで
しかもそれが実現したというのが多々ありますね。
だから今でも子どもに将棋を教える場合もあるんですけども、
まあ子どもにはちょっと難しいかもしれないですけども
小学生に「負けることもいいんだよ」とは言ってますけど。
荻上
おお、勝つばかりが全ての勝負じゃなくて。
加藤
普通は子どもなんか勝つ方が嬉しいに決まってますけども
「いや、別に負けて泣くこともないよ」とは言ってるんですよ。
荻上
続けてると必ずどこかで負けることもあるので、
負け方も大事ですよね。
加藤
そうですよね、私としては「負けて強くなる」ということは
体験で一応、自分で身をもってやってることなので
今回本になりました。
荻上
いろんな棋士の方々とのエピソードもたっぷり収まっていますので
将棋ファンはもちろん必読ですけども。
先ほど番組が始まる前にモーツァルト作曲のミサ曲ハ長調・戴冠式ミサより
「クレド」を掛けさせてもらってですね。
これは加藤一二三さんに選曲していただいたわけですけども
そんなに時間がなくて一気にオープニングまで来たんですが、
なにやら娘さんも今ミッションスクールに通ったのちは・・
加藤
ミッションスクールに娘が通ってまして、特に中学・高校で
音楽の教師がモーツァルトの戴冠式ミサ曲を全員が歌えるように教育したので、
私の娘の経験でいくと高校を卒業すると
戴冠式ミサ曲を歌って校門を去って行ったと言ってます。
だからたぶん卒業した学生たちが今でも同窓会なんかで会うと
ミサ曲の話はしてると言ってますね。
荻上
それだけ思い入れもいろんなところで強い曲でもあるんですね。
加藤
今でも将棋の対局の前の日はモーツァルトの戴冠式ミサ曲とか
あとまあミサ曲の中でも「大ミサ曲」というのもあるんですけれども
バッハの「シャコンヌ」とか
メンデルスゾーンの有名なシンフォニーで「スコットランド」とかいう名曲を
2,3時間聞いて英気を養ってというのが対局の日の姿ですね。
荻上
2,3時間、対局の前に。
加藤
まあ名曲を聴いていると私も「明日良い勝負指したいな」と
自然に思えるようになってくるんですね。
なんせ天才作曲家の美しいメロディーですから、
聴いているうちに「よし明日、自分だって良い勝負指すぞ!」と
自然に決心がついてくるんですね。
荻上
実際にその加藤さんがクリスチャンになられたのは、
将棋のプロになられてから後ですよね?
加藤
昭和45年ですけれども、少し本を読んで確信を持ったので
洗礼を受けるということをしたんですけども
同時に昭和45年ごろ自分の将棋の仕事上で若干の行き詰まりを感じてまして
このままだったら、まあ30歳前だったんですけども
このままだったらば自分の人生別に先はそんなに大きく展開しないなと思ったんです。
それでまあキリスト教の洗礼を受けることによって
まあ神様の助けを得て、一生懸命やってる自分の努力がですね。
お恵み助け・・神様の助けによって昇華できる、飛躍できると思って
実際私は自分でそうなったと思ってますけどね。
荻上
ええ、ええ。
ミサ曲などを聴くようになったのはそれからだいぶ後になるわけですか?
加藤
そうですね、特に私のですね最も大きな業績は
1982年昭和の57年の7月に名人になったんですけども
その名人戦っていうのは当時の中原名人と10番勝負を戦ったんですけども
10番戦ってる中でやっぱり対局と対局の合間がありますから
1週間から10日合間があるんですよ。
その合間にモーツァルトの「戴冠式ミサ」あとは「レクイエム」
あとはバッハの「マタイ受難曲」などを聴いてですね。
ずいぶん励まされました。
ちなみに面白いことにですね、私たちの将棋の仲間が世界1、2のオーケストラの
ウイーンフィルハーモニーの管弦楽団のメンバーと会って話をしたことがあったんです。
そうすると、福原9段が言ってましたけども。
我が将棋界では加藤一二三名人がモーツァルトの『レクイエム』を聴いて
励まされて名人になったことをウイーンフィルの名手たちに語ったらですね。
「いやー、それは将棋の加藤さんという方は才能の豊かな人で、
モーツァルトの『レクイエム』はそういうふうには私たちは聴かない」と。
語ったというそういうエピソードがあるんですよ。
で、僕にとっては大変嬉しい話で。
けっこう得意になって話してるんですよ。
で、ウイーンフィルの人たちが言ったのは
「加藤一二三さんは将棋の天才だ」って言ったっていうんですよ。
荻上
なかなか「レクイエム」聴いて「よし明日に備えよう!」っていう人は
なかなかいないでしょうからね。
加藤
ちなみにね、私の娘が長男と女の子が3人いるんですけども
末っ子がですね、ちょうど名人戦の最中で
「レクイエム」のCDを掛けて聴いてましたらですね。
当時、幼稚園生だったんですけども末っ子がですね
モーツァルトを聴き終わって「朝が来たようだ」ということを言ったんですね。
それで「朝が来たようだ」っていうことを私が随筆に書いたら
NHKの「クローズアップ現代」の特集があったときに
私に出て欲しいと。
「クローズアップ現代」に出ることになったんですけど
娘さんの言った「朝が来たようだ」っていうことをね
メインテーマにしたいということで実際そういう話をしたんですよ。
たぶん「レクイエム」というのはですね、やはり亡くなった人の魂を流す曲なんですけれども
バッハの「シャコンヌ」という名曲と同じように何か救い?
明るい希望で終わる曲だと思うんですね。
そこで幼稚園生だった末っ子の女の子は「朝が来たようだ」と
言ったと思うんですけれどもね。
そうすると、青柳泉子さんが司会だったんですけども、音楽家の。
青柳さんのがおっしゃったのはモーツァルトというのはどの年代の人でも
十分感動できる名曲をたくさん作ったということをおっしゃってましたので
たぶんどの年代の層でも感動できる曲だというんで私の子どもも幼稚園生だったから
幼稚園生にも非常に訴える力のある曲だったように受け止めてますけどね。
荻上
なるほど、お子様にも。
でも今でも対局前に聴くような曲として大事に聴き続けておられるわけですよね?
やっぱりその習慣というのはあまり変わらないものですか?
加藤
モーツァルトという人はですね、
音楽の名曲は元気でないと作曲できないと言ってるんですよね。
ですから、モーツァルトの曲はどの曲聴いても元気になるんですよね。
南部
元気なときに作ってるからエネルギーがやっぱり・・
加藤
元気でないと作れないと大天才は語ってますね。
荻上
それを聴いて大天才が将棋を指すということになるわけですね。
加藤
面白いことにですね、モーツァルトとかバッハは古典派と言われますけども
例えばメンデルスゾーンとかドボルザークとかショパンとか聴きますけどね。
ロマン派の名曲はですね、まあメンデルスゾーンは聴きますけども
私がロマン派の曲は対局の前に日には聴きませんと言ったら
NHKの「N響アワー」に出たときに池辺晋一郎先生(作曲家)が
「ロマン派の名曲は攻めていく音楽だ」というふうにおっしゃいまして
加藤さんがロマン派の音楽を対局の前に聴かないのは
攻めていく音楽、ロマン派の名曲を対局の前に聴いたのでは・・
将棋っていうのは激しい勝負なんですよ。
対局の前の日に激しい音楽よりは古典派の音楽の方が合ってる
というふうにおっしゃいましたね。
荻上
落ち着かせて翌日に備えると。
加藤
そういうことですね。
自然に自分も惚れ惚れとして聴いておって
「なんとかいい将棋を指したい」と自然に何回聴いても思えるんですね。
将棋棋士・加藤一二三が語る
「耳障りになるので3度くらいは滝を止めたかな」
へ続きます。
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