講談師・神田松之丞が語る「相撲の話やる前に鰻屋の話行っていいですかね」

2015/10/06

「まくら」 うなぎ かぶと サンキュータツオ 講談 渋谷らくご 神田松之丞

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今回は2015年7月12日配信『渋谷らくごポッドキャスト「まくら」』
【神田松之丞さんのまくら】を起こしたいと思います。


サンキュータツオ(以下、タツオ)
どうも、サンキュータツオです。暑い日が続いております。あの今お盆ですけれども。来週「渋谷らくご」が始まります。よろしくお願いいたします。

さあ今日ご紹介するのはちょっといつもと編成が違うんですけれども、2本立てでお送りしますが神田松之丞さん。

まだ32歳、芸歴も8年ぐらい。このポッドキャストでは2回目トークゲストとして出演して下さったときの音声を配信しましたけれども。

実際その松之丞さんがどんな高座をやっているのか?そのまくらを聞いていただきたいなというふうに思います。

まずは7月12日に行われました「渋谷らくご」の高座より松之丞さん、この日は「谷風の情け相撲」というお噺をやったんです。

まあ古典で、講談のお決まりの大人気ナンバーでございますけれども。

その前にですね、松之丞さんの前に春風亭昇々さんという芸人さんが上がられまして・・・

ちょっと別居した奥さんと散々揉めるお話、罵倒するお話、まあ喜怒哀楽がいっぱい詰まった創作落語を昇々さんがやって。

もう会場がうなるぐらいウケたりとか、ちょっとドヨドヨした感じのところに松之丞さんが上がってくるというような感じを想像してください。

途中聞こえる「パンパンッ」とかっていう音は松之丞さん講談の方、講釈師でございます。

いわゆるみんながイメージする落語の前に小っちゃい机が置いてあって、その前にハリセンと拍子木でまあちょっとしゃべりのリズムを整えるみたいな。

とにかくおしゃべりが達者な方でございます。

身辺雑記からお客さんをどうやって惹きつけていくのか?まずはその7月12日松之丞さんのまくらを聞いていただきたいと思います、どうぞ。




神田松之丞の講談のまくら

松之丞
なんかあのずっと昇々兄さんの高座をソデで聞いてたんですけどね・・なんかあったんですかね?(笑)いやなんかあったんじゃねかな?と思ってね。

いや、あったのかな?分からないですけどね。ビンビン来ますよね!なんかあった感が!なんかあった感、ハンパなかったですよね(笑)

いやなんかすごかったなと思ってね。まくらでも兄さん話してましたし、集団行動も出来ねえし、プライベートはあんなだし、もう最悪ですね兄さんの人生が(笑)

でもそんな昇々兄さんがですね、楽屋ですごい優しい言葉かけてくれるんですよ。もうね、ものすごいキュン!ってなるような言葉かけてくれたんですよ。

ちょっと皆さまにおすそ分けしたいと思いますけど。

そんな泥沼の昇々兄さんがかけてくれた優しい言葉!「俺、楽屋で松之丞といるときが1番楽しい」超かわいいでしょ!!超かわいいのよ!それであの高座やってるからね。

「フワーッ!」と思って。なんとも言えない気持ちになりますね。

なんかすごい身に沁みましたよ、いろんなことが。1席申し上げますけどもね。

まあやっぱり何にせよ、「相撲」っていいですよね?・・・どうです?この急に相撲の話!

「ああ、こいつ相撲の話やるんだな」っていう空気がすごいっていうね。でも冷静に考えたらですよ、いま初日が今日から始まったんですよ。

冷静に考えてその初日が始まってて本当に相撲が好きな人はテレビにかじりついてますから、1番ニーズがない中やるんですよ(笑)

池袋のうなぎ屋の話

もう最悪なんですけどね、ただその相撲の話をやる前にちょっと「鰻屋」の話行っていいですか?

・・・いいですね、皆さんの空気。俺が「相撲の話やる前に鰻屋の話行っていいですかね」って言ったときの皆さんの心の声!「勝手にしろよ」っていう(笑)

「お前の高座だから勝手にしろよ」みたいな空気すごいありますけどね。

あのなんでもそうなんですけど、こう元気がなくなるとか嫌なことがあったときに何か美味しいものを食べて解決しようみたいなのが自分の中のリズムとしてあるんですが。

でまあそういうときはね、高級なのを食いたいと。

この前、鰻屋に行ったんですよ。ただ1人で行くのはちょっとあれなので、皆さん知らないと思うんですけど後輩にくま八くんというのがいるんです。

ちなみに山遊亭金太郎師匠の弟子だから「くま八」っていう超安易な付け方の「くま八」という男がいるんですけど。

で、こいつがもともと築地で働いていたんで食に対してたいへんうるさい。だから非常に信頼できる男なんです。

じゃあこいつ連れて行こうつって「俺、鰻食いたいからくま八、鰻の美味い店知ってるか?」つったら、もう即答で。

「ありますよ、兄さん。鰻の美味い店」

「あるの?どこにあるの?」

「池袋にひらがなで『かぶと』っていう店があるんですけど、それめちゃくちゃ美味いですよ」

「えっ!俺、池袋地元だけど知らなかったな」

で、いろいろ調べたんですよ「かぶと」、そしたら食べログで5段階評価ですけど普通だいたい3ぐらいじゃないですか?

食べログってけっこう厳しいですから、その「かぶと」見たら4.8ぐらい付いちゃってるわけ。

で、なんかいろいろくま八に聞くとですね、ここの店はめちゃくちゃ良いんですよ。小汚いんですけどまず値段が安いんですよ。

値段は安いんですけど、最高級の鰻を出す店なんですよ。「それめちゃくちゃ良いじゃん!なんか問題あるの?」って言ったら、「あるんですよ」つって。

「えっ、何の問題あるの?」つったら「鰻屋の親父が頭おかしいんですよ」って。したら、食べログにもやっぱ書いてあって、

「鰻の味良し、質良し、親父の接客悪し」って書いてるんですよ。「えーーっ!」と思ってそんな接客の悪い店があるのか!って。

でもなんかこれネタ探しも含めて美味しいもの食べたいですから「行こう!」つって、もうこれ完全予約制ですから予約で行ったんですよ。

まあだいたい6時くらいですかね?行ったらね、なんか狭い店なんです。池袋の本当にもう角にあるような店で、もう汚い!

カウンターで6席くらいですかね?あとテーブルが2つあってですからまあだいたい10人くらいしかお客さん入れない。

で、働いている従業員はっていうと、その親父と「かぶと」の女将さんだけのなんです。2人で働いている。完全予約制ですよ。

でもちょっとこっちもビクビクしながら、なんか頭おかしいって言うからどれくらいおかしいのかな?って事前にくま八にリサーチしたら、

その鰻屋の親父のセリフ集、名言集みたいなのがあるんですけど、これちょっと皆さん聞いていただけますか?

その鰻屋の親父の名言「俺の前に俺はなし 俺の後に俺はなし」完全にパクってるんですよ!(笑)

要するに俺以上に鰻に精通しているやつはいないと。そいつの口癖は「俺は日本一の鰻屋だし、今後も俺ぐらいのやつは出てこない」っていうのを平気で言う親父なんですよ。

どうです、頭おかしいでしょ?(笑)この親父の店なんです。でも緊張するじゃないですか?そんな店。

だいたい「質良し、味良し」で値段良しの場合でこの親父が守っているルールっていうのは「俺は最高のパフォーマンスを出す」と。

その代わりこの狭い俺の店においては俺、王様にさせてくれと。悪いけど俺の言う通りに全部させてくれと。

その代わり最高級の鰻を出すよ、嫌なら来なくていいやってそういう感じなんですよ。

で、そこ緊張しますから一応予約通りに行ったんですよ。ったらなんか全然普通なんです。

親父が板場でもって鰻さばいてたりして、まあ常連客が6,7人来てましたよ。俺らテーブル席座らされて「なんだ、けっこう普通だね」なんつって。

「じゃあ最初は豆腐を頼もうか?それでお酒頼もうか」みたいな。もうすぐ豆腐来て、「いいね、早いね」と。

豆腐を食おうと思って近くにあった醤油をかけようとした瞬間に鰻屋の親父に怒鳴られたんですよ!どう怒鳴られたか?っていうと・・

「兄ちゃん、やっこに醤油かけんじゃねえよ」・・・醤油置いてあるからね、言っとくけど(笑)

醤油置いてあるからね、かけていいみたいな罠があるわけですよ。その鰻屋の親父が言ったセリフが「やっこはよ、塩で食うんだよ」

「うわっ、厄介な店だな」と、「うわ、うわ、うわ、うわっ!」と。でもなんかこれ逆らうわけにも行かないですから、塩で食ったらね今までこんな豆腐食ったことないぐらいの味なんですよ。

「うわっ、美味いね!」って対面でくま八くんと「これめちゃくちゃ美味いな」つって酒来てやっこばっかり食ってたんですけど。

30分、1時間、1時間半経っても注文した鰻が来ないんですよ!これ親父忘れてるんじゃねえか?

「これどうせ忘れてんだよ」って親父の方をスッと見たら、もうまた自慢話をしてるんですよ!「俺は世界一だ!」って日本酒飲んでるんですよ!

その鰻に日本酒とかかけ出してね、「俺にさばかれて嬉しいだろ」ってこれマジなの!!これ作ってると思うでしょ?これマジだからっ!!

完全に頭おかしいやつが鰻作ってるんだよ。で、常連もなんかゴマすりばっかりみたいで「へへっ、そうですね」みたいな感じなのよ。

これ1時間半経っても来ないから、くま八に言ったんです。「悪いけどくま八、たぶん親父忘れているから何気なく『ひょっとしたらお忘れなんじゃないんですか?』ぐらいで聞いてみろよ」って。

くま八も常連とその親父がしゃべってるから間を見計らいながら、1時間45分後ですよ注文の。

ちょっとくま八がパーンと言って「親父さんすみません、なんか忘れてるんじゃないですかね?さっき鰻頼んだんですけど」って言ったときの鰻屋の親父の返答

「鰻屋急かしてるんじゃねえよ」って、ええーーーっ!!1時間45分経ってるのに!ちょっとしたフランス映画ぐらいあるのに!マジで!

いやそれでまた他の常連客も「ああああ、ムクドリが飛び込んできた」みたいな感じなんですよ!ええーっ、俺ら田舎者みたいな扱いになってる!

そしたら、その鰻屋の女将さんがすぐパーッと飛んで来て、ああこれさぞかし謝るんだろうと。そりゃそうですよ、親父が頭おかしいですから。

「すいませんね、頑固者でございまして。すぐ鰻出しますから」って言うと思うでしょ!!違うの!!鰻屋の女将さんのセリフすごいですよ!!

「鰻屋急かしちゃダメ!」おんなじなのよ!「マジか!!」と。急かしちゃいけないんだ!!

俺、32で初めて学んだわみたいな。もうすごいわけ。でも30分ぐらい経ってようやく鰻出てきて食ったら、美味いんですけど俺ちょっと腹ペコじゃないですか?

腹ペコでいかにもあるからそれで美味いんじゃないか?っていうのもあるんですよ。

この宮本武蔵と小次郎の戦いみたいにね。じらしてじらしているから。まあでもなんかいいやと思って俺会計しなきゃいけねえんだなと思って、嫌な気持ちだなと思って。

鰻は美味かったけど、あーあ嫌な気持ちだな「お会計お願いします」って言ったら案の定安いんですよ。

「ああ、安いな」と思って、「くま八行こうぜ」ってポイって行こうとしたときに鰻屋の親父が「おいっ!ちょっと待て」ってこう言うんですよ。あっこれ鰻屋の親父、江戸っ子だからここで謝るんだと思うんじゃないですか?

もう謝りゃこれはいいよな「俺もちょっと言い過ぎたぜ」みたいなことがあれば、「そういう店なんだな。俺もちょっとルールが分かってなかったな」みたいに思ったんですけどそのとき鰻屋の親父が言ったセリフ!

「おい兄ちゃん!」「何です?」「今度、みやげ持ってこいよ」何でだよっ!!何でだ!と。

外に出たんですよ、こんな腹立つことはないと!!こんなに世の中に腹が立つ店があるのか!と思った。そしたらくま八がこんな店を連れてきたからさぞかし謝ると思ったんですよ!

「兄さんすいません、こんな店でお金使わせちゃって本当にすいません」ってくま八が言うと思ったら、くま八のセリフ!「兄さん、また来ましょう!」何でだよっ!!バカばっかりなんですよ、登場人物が。バカしか出てこないの、常連も含めて。

こんな腹立つことはないなと思ってね。そのあとサイゼリヤに行ったんです。超美味かったね。俺騙されてたマジックにかかってたみたいになってね。

まああのそういうような思いをして、逆に不快なことがあったときにおいしい思いをしようと思ったらそういうことがあるんだななんてことを思ったりいたしますよ。

お相撲のお話です・・



タツオ
いやー面白いですよね、パワーありますよね。「ちょっとしたフランス映画」っていうフレーズとかにやっぱこの方の知性が出ますよね。

なかなか1時間45分っていうのをどう例えるか?「ちょっとしたフランス映画」ですよと思ったら「バカばっか!」っていうね大雑把にみんなを批判するという。

こういうことを言うと野暮ですけど、繊細さとすごい大胆さを両方持っているというね、まあ松之丞さん普段は講談協会。

講談の定席も出ていらっしゃいますし、落語芸術協会という組織にも所属しております。

なので落語芸術協会の定席、寄せですよね。まあそちらの方にも出られたりとかしてます。

今はですね、落語芸術協会の二ツ目のメンバーを中心とした「成金」というグループがあって今は落語会の若手はここを中心に回っていると言っても過言ではない。

まあ昇々さんはじめ瀧川鯉八さん、松之丞さん、桂宮治さんまあ「渋谷らくご」に携わっている人も大勢出ていますけれども、

この「成金」メンバーの1人でもあります。小痴楽さんとかもそうですし。

なので割りと深夜寄席とか毎週金曜の「成金」とかそういったところでよく見かける機会もあると思いますし、

今後どうやって年をとって行くのか非常に楽しみなグループでございます。そんな「成金」メンバーの中でも松之丞さん講談ということで。

神田山陽以来の才能のある男性講談師

講談久しくね、なかなか男性の才能ある人というのが登場しなかった、そこに僕が見だしたころはですね。

神田山陽さんという2代目の、神田北陽改め神田山陽さんという方がいらっしゃったんです。まあ他にもいろいろ男性の講釈師いらっしゃるんですけれども。

まあなんというか、ジャンルを超えて落語ファンとかお笑いファンにも響くような人というのはいなかった。

そこにこの松之丞さんというね、肩の力の強い芸人さんが登場してきたということで今にわかに講談回りザワザワし始めてるということで。

しかもこの「渋谷らくご」で見る松之丞さん、よく会場の空気のことをすごく気にする発言がいっぱいあるんですけど、

これそこまで気にしなくていいんじゃないの?とか思うんですけど。まあどうしても若いお客さんの前でどう戦うのか?っていうことをすごく考えて下さってますんで。

渋谷らくごホームページ

(続きます)

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講釈師・神田松之丞が語る「江戸の町人たちにとって怪談噺というのはこういう意味があるんだよ」

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