コラムニスト・深澤真紀が語る「大人の感動のために子どもを利用する教育がとても増えている」

2017/04/30

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今回は2017年3月7日放送「大竹まこと ゴールデンラジオ!」
「大竹紳士交遊録」深澤真紀さんの回
起こしたいと思います。


深澤
あのまあ森友学園の問題が広がった理由のひとつが「中国から日本を守って安倍首相を応援しよう」と言わされている子どもに昭恵夫人が涙を見せた映像。けっこうあれが衝撃的だったじゃないですか?

でね、これどうしてか?っていうと今って大人の感動や都合のために子どもを利用する教育が実はとても増えているんですね。

大竹
あっ、そうなんですか?

はるな
どういうこと?

深澤
そう、今日はそれを話すのよ。だから今日は森友学園だけではなくて、どうして大人のための子どもの教育があるか?ひとつは「誕生学」って聞いたことありますか?

これね、「公益社団法人誕生学協会」が行っているんですけど誕生の素晴らしさを伝えることで自尊・自分を尊重する感情を育んでいじめや青少年の自殺を減らすための教育プログラムで学校で取り入れているところも増えている。

いいような気もするんじゃないですか?誕生学なんて。ところがこれ自殺予防の専門家は「命を大事にしよう」というのは「自殺予防の教育にとってもっともよくない」って言っているんです。

意外でしょ?「命を大切にしよう」っていうのは実は受ける子どもにとっては最も効果がないって言われているんです。

なんでか?っていうと、いま思春期の子どもって約1割がリストカットの経験がある。悲しい話なんですけど。実際、私も大学で教えていて自傷経験のある子っていうのは少なくないんですね。

私たちはどうしてもそういう自傷経験のある子たちを見ると「弱い」とか「甘え」とか「かまって欲しいんじゃないか?」っていうような・・メンヘラちゃんだとか、かまってちゃんだとかっていうような感じで言ってしまうんですけど。

やっぱり多くの子どもは学校とか家庭に苦しめられていて絶望している。それに対して助けを求めることができないからこそ自分を傷つける方に行ってしまうんですね。だから実際にはほとんどの子は言わないんです、自分がリストカットしたことを。

つまり彼らに必要なことは何か?っていうと「自分が今つらいのは自分のせいではない」っていうことを知ること。あとは「大変なときには誰かに頼る」この2つが子どもの教育にとって一番大事なことなんですね。

ところが「命って大事だね」とか「産まれてきたことは素晴らしいね」ってそういう傷付いている子に言っても「自分はそれに外れた子だ・・」ってなっちゃうじゃないですか?

「命が大事だったら、どうして自分は例えば虐待されたんだろう?」とか「産まれてきたことが素晴らしかったのならどうしていま自分はこういう環境にあるんだろう?誰も助けてくれない!」っていうふうに思ってしまいがちなのね。

しかもさらに残りの9割の自傷しない健康な家庭に育った子たちからすると今度は「命は大事だ」っていう教育しか受けないと辛さを抱えた友だちを助ける方法が学べないわけですよ。

「命は大事なのに、リストカットなんかしたらダメじゃん!愛ちゃん!」ってなっちゃう。そうじゃなくて「あなたが悪いんじゃないんだよ。深澤先生ならきっと信用できるから相談しに行こうよ」とかっていう教育が必要なんですね。

太田
これ子どもだけじゃなくて、大人もそうですね。

深澤
いや、そうなの!本当にそうなのね。これはね「命が大事」っていうのは結局「道徳教育」なんですけど実は子どもに大事なことは「命をどうやって守れるか?」という「健康教育」。「健康教育」という目線が大事で今とにかく「道徳教育」ばっかりなんですね。

あと同じ誕生学協会っていうのが広めて、これは聞いたことあるかもしれませんけど「2分の1成人式」っていうのがとても流行っているんですね。この15年ぐらいはけっこう、だから今の20代の方とかは学校でやったりとか。

はるな
何ですか、それ?

深澤
成人の20際の2分の1っていうのは10歳でしょ?だいたい小学校4年生なんですけど、参観日のときに行われるんです。それは例えば産まれた来たときの写真とか子どもの10年間はこういうことがあったとか「お父さんお母さんありがとう」って感謝状を書いたりとか。授与式とかがあるんです。

これも良さそうな気がするんですけど、その10年間でみんな事情が違うわけですね。例えば問題になったのは養子の子とかもいるんです。養子の子とかはその事実を知らなかったりするんだけど、親に「どこの病院で産まれたの?」「僕、何グラムだったの?」とかって書かなきゃいけないから。

そうすると親は「嘘をついてもいいけど、どうしよう!」とか「もうちょっと大きくなってから言おうと思っていたのに、10歳で!」ってこともあるし、もちろん離婚したり死別したりとか。あと虐待されてる子とかもいるのに。

その10年間の歴史を書かせたり、感謝状を書いたりするのは厳しい。そもそも子どものプライバシー侵害。私もあんまり幸せな子ども時代じゃなかったので10歳のときにこれをやれ!って言われたら、相当つらかったと思うので。子どものプライバシーの問題もあるし、傷つけかねない。

そもそも18歳成人になったらね、2分の1は9歳になるんですけど、つまりこれ両方とも良さそうですよ。「命を大事に」とか「親に感謝しよう」っていうのは。でもこれ何か?っていうと問題は教える大人とか見てる大人が感動するだけなんです。

2分の1成人式って親みんな泣くんですって。いや私も想像できますよ、自分の子が10歳になって「お母さん、ありがとう!」とか言ってくれれば嬉しいけど。

はるな
大人目線なんですね。

深澤
だからいろんな事情の子どもがいるのに、だから9割に子どもにとっては感動「よかった、命は大事だ」とかって思う。だけどそのさまざまな1割の子どもの事情も無視しているし、あと9割の子どもが逆に少数派の子どもに対する想像力が湧かなくなりますよね?

「みんな自分の命は大事で、みんな愛されて育ってきたんだから子どもを愛さない親はいないよ!愛ちゃん!」とか言われたりして「いやいや、お前に俺の何が分かるんだ!」っていうそういう教育がものすごく流行っていて。

その象徴のもうひとつが、これはさすがに話題になったんで皆さん覚えていらっしゃると思うんですけど、組体操。組体操なんて、あれまさに完全に大人のための子どもの奉仕じゃないですか?

見たら感動しますよ、子どもたちがワーッとかってやっていると。なんだけどあれも指導する大人が1番感動するんですって。「俺の言う通りに子どもが言うことの喜び」それはやっぱりね大学ですらちょっと学生が自分の言うことを聞くと「危険だな」と思うもん。

思った通りに子どもが自分の言う通りになる快感ってやっぱりちょっと危険な誘惑があって、組体操なんてまさにそうじゃないですか?さすがにでもこれはすごく問題になって、いま教育の行政指導が入りまして、ものすごく事故が減ったんです。

それまではやっぱり「感動するからやめさせれらない」っていうちょっと親へのサービスみたいなところもあって、だから日本って実は入学式も卒業式も運動会も大人目線で作られすぎていると思いません?

きちんと整列して「お父さん、お母さん、先生ありがとう」みたいなアレのために何十回も練習させられたでしょ?だから当日はだいたいシラけちゃうんだよね、練習しすぎて。

大竹
まああの・・おっしゃっていることはよく分かるんだけど、あえて異論を言わせてもらうと。アジアなんかは特に親を敬う思想みたいなのがとっても浸透しているよね?

それで良い面もあるよね?そういうときには。そういうのっていうのは範疇から言えばさ道徳じゃない?その道徳みたいなことはどういうふうにしたらいいのか?っていうふうにしたらいいのか?っていうふうにちょっと疑問があるんだけど?

深澤
もちろんおっしゃる通りで、つまり一番大事なことは「大人のための道徳にしない」っていうことですよね。これ例えば日本も批准しているんですけど国連は「子どもの権利条約」って言い方をしているんですね。

ということは何か?っていうと子どもが主体なんです。だけど日本ってすぐに「青少年健全育成条例」とか子どもの健全に育成するために子どもに禁止したりとか見せないとか夜遊ばせないとか禁止するじゃないですか?

子どもは守る客体、保護する客体になる。でも「子どもの権利条約」っていうのは子どもは主体であって子どもが自分で自分を守ることが大事で、その関係の中で大人というものに付き合う。

子どもが自分の権利を尊重されるために大人とどう付き合うか?っていうことを考えたときにはじめて大人を尊重するとか、大人を尊敬するっていうのは自分が尊重されないとやっぱり大人を尊重できないんですけど。

日本の教育ってやっぱりどうしても「国を愛そう」とか「いのちを大事に」っていうふうに「子どもに考えさせない」っていうのかな?だって子どもは基本的に大人が好きだし親が好きですよ。それをちょっと利用しすぎている気がしますね。

大竹
でもその昔からのアジアに広がる道徳とか親を養うとかそういうのって深澤さんがおっしゃったようなことを考えずにもっと大胆に「そうするものだ!」みたいな中でそういう道徳は広がっていったんじゃないですか?過去は。

深澤
どちらかというと中国の儒教的な発想ですよね。儒教自体には良い面もすごくたくさんあると思うんですけど。日本はどちらかというとそれを過剰にしすぎちゃった社会かな?とは思いますね。

だから他の中国とか韓国の儒教はむしろ日本よりよっぽど知らないお年寄りにも親切ですよ。席を譲る率も日本よりも高いですよね。

太田
これも難しいと思うんですけど、1つの色に染まった価値観を押しつけるという教育がとても危険なような気がして。

例えば「2分の1成人式」に関しても、ひとりひとりのお子さんが10歳になったことを区切りに自分の来し方を産まれてはじめてちゃんと振り返って

「他の子どもがこんなに違うんだ」「それぞれこういうふうな来し方を過ごしてきたんだ」「じゃあ自分はどうなんだろう?親との関係はどうなんだろう?友だちにはこういう人もいるんだね」っていうのを学ぶっていうことはそんなに悪いことではないような気がするんですよね。

深澤
もちろんそうです。だから多様性っていうことのためなら良いんですけど。でもやっぱりかなりプライバシーの問題に関わってくるわけですね。

それはやっぱり大人ありきっていうか、大人のご機嫌を取るための教育というか、けっこう教育が親に対してのサービス業かしているところがどうしてもあって。

それはね、やっぱり非常に危険だし。森友のようにいまもう虐待も明らかになっているのでそれはもちろん論外なんですけど。

大竹
すごいよね、歩いているところに田んぼの中に落としたりするようなの。

深澤
そうなんです、でもね善意に見えるような教育もやっぱり根が同じというか・・やっぱり子どもを尊重しない、子ども権利を尊重しない・・

はるな
個々をね、個々を尊重しないってことですかね?

深澤
うん、だからそうすると「教育勅語」であろうと「2分の1成人式」であろうとやっぱり大人が見て心地よい教育。教育って必ずしも大人にとって心地よい結果を生むものであってはいけない。つまりは思い通りにならない子になってもいいわけですから。

大竹
ちょっとでも俺ちょっと論点が違うんだけど、虐げられた過去とかさ屈辱的な何かとかさそういうのを土台にさ・・。

深澤
10歳でですよ、10歳は早すぎますよ!

大竹
だから分かんないけども。過去なんか振り返ってみるとヨイショヨイショみたいなのはさ、何にも堪えないでさ。そうじゃない屈辱の歴史が自分の歴史を支えているような気もしないでもない。

深澤
大竹さんとか私みたいな人間はそこを越えられるけど、越えられない人の方が多いですって!私だって「越えられないな」って思ったこと何度もありましたよ。

太田
難しい問題なんで、また場を改めて議論していただきたいと思います。

大竹
まあでもおっしゃっていることはよく分かります。

深澤
とにかく教育の問題に興味を持っていただきたいということと、あと最後に「子どもを守るために知っておきたいこと」という本と「教育という病」という本、この2冊がおすすめなので、ぜひこのテーマに興味があったら読んで下さい。
  

(了)

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