今回は、2017年5月28日放送「真夜中のハーリー&レイス」
「vs坂本頼光(活動弁士)」の回を起こしたいと思います。
清野茂樹(以下、清野)
さて流れてきたのは「麗しき美」という曲ですね。チンドン屋さんのイメージですけれども、さあこの曲に乗せましてリングインを果たしました今夜のゲストをご紹介しましょう。活動弁士・坂本頼光(さかもとらいこう)さんです、ようこそこんばんは。
坂本頼光(以下、坂本)
どうも、ラジオをお聞きの皆さんこんばんは。坂本頼光でございます。
清野
いいな、もうなんか曲によく合ってますね、やっぱしゃべりが。
坂本
いえいえ、もうドキドキしておりますね。
清野
お手柔らかにお願いいたします。さあ坂本さんはなんてたって活動弁士という特殊な仕事でけっこうびっくりされるんじゃないですか?
坂本
これはね、もう「活動写真弁士」というのが一応正式名称ですけれどもね。「活動弁士」ってちょっと略して、で「活弁士」っていう言い方もあり「活弁」っていう言い方もあって。それで一番縮めると「弁」って言われることもあるんですけど。
清野
えーっ!
坂本
いやこれ本当にネタじゃなくて、昔は浅草でそういうふうに言われていたっていうんですよ。要はこれですよね?皆さん「『活動写真弁士』って何じゃ?」という話になりますけれども。
いにしえの無声映画、サイレント映画ですね。すなわち写真が動いて見えるから「活動写真」って映画は昔言われていた。音声がないわけでございますね。
そこでスクリーンの横に立って、登場人物の声から物語のナレーションに至るまでを全部ひとりで喋るのが「弁士」という「活動写真弁士」っていう仕事があったわけですよ。今でも何人かが頑張ってそれをやっとると、こういうことです。
清野
日本にいま何人いらっしゃるんですか?
坂本
公称10人。
清野
10人って相当少ないですね。
坂本
少ないですね、うーん。しかも生殖能力がある人は4人くらいしかいないと思いますよ、そんなこと言っちゃいけませんけれども。
清野
あと6人は枯れた感じで?(笑)
坂本
もうパンダか何かみたいなね。でも国が助けてくれませんから。
清野
絶滅危惧種に指定されていないと。「絶滅するならどうぞ」という感じの。
坂本
「えっ!もう絶滅してたんじゃないの!?」みたいな。そんな感じですよ(笑)「活動写真弁士」って長いですしね。「落語家です」とか「漫才師です」とか「浪曲師です」とか一息で言えるじゃないですか?「活動写真弁士です」って言うとちょっと長くなるんですよ、自己紹介が。
「活動写真弁護士」って言われちゃったことがあって、司会の人に。「今日のゲストは活動写真弁護士の坂本頼光さんです」つって、「うわっ、弁護士になっちゃった!」って。
清野
いやでも本当によくぞまたその道を目指したというか、志したというかね。
坂本
もともと映画が好きだったんですよね。それでなんでも見たんですよ。ただ無声映画とか弁士っていうのは知らなかったんですけど、中学校2年生のときに王子の「ほくとぴあ」っていうところで、弁士つきのサイレント映画の上映会っていうのがあったんですよ。
清野
中2で?
坂本
学校の授業で、課外授業で。皆さん「映画鑑賞教室」とか行かれませんでした?あれで引率されてズラーッと行ったんですよ。そしたら澤登翠(さわとみどり)さんという現在でもうちの業界で一番偉い方ですけれども。その方が「チャップリンのキッド」という1921年の名画を説明されてて。
それで私はそれを聞いてカルチャーショックを受けたわけですよね。「ああ、こういう仕事があるんだ!」と。はじめて生で見たと。
清野
そうだと思いますよ、だって未だに見たことない人が多いと思いますから。
坂本
それで演奏も生演奏なんですよ。音楽がないから、サイレント映画ですからね。だからもう全部生なんですよ!声も映像も語りも全部生で完全なライブなんですよね。
清野
じゃあ逆にそれまではどんな映画が好きだったんですか?
坂本
いやもう時代劇ですね。
清野
中2で時代劇ですか?
坂本
おじいちゃんっ子だったので、おじいちゃんが家庭のチャンネル権を掌握していたもんですから。「暴れん坊将軍」とかそんなのばっかり見てましたよね。だから時代劇にはあんまり抵抗がなかったし、あと日曜日とかも昼間に古い映画とかやってましたでしょ?あういうのを見慣れていて、大好きでしたね。時代劇は。
今この仕事だから、それが役に立ってますけど。他の仕事に就いていたら、さぞ不幸な人生だったんじゃないか?と思いますよ(笑)
清野
まあまあ、ただの時代劇好きみたいな感じになっちゃってるという可能性もあったと?それで衝撃を受けて「これだ!」と思ったわけですよね?
坂本
それで自分もやってみたいなと思って。落語や講談もなんとなく興味はあったんですよ。やっぱり中学ぐらいになるといろんなものに興味が広がって行きますからね。
で、映画と演芸のハーフというか間になるもの・・そういう芸はないのか?と思ったら、活弁もうピッタリでしょ?だって映画じゃないんですよ、ライブだから。でも寄席とかに出る芸人かと言われたらそういうわけでもなかったわけです。なんかその中間が面白かったんですよね。
清野
いや僕でもその気持ち分からないでもないです。っていうか分かりますよ!やっぱり中2ってけっこうそういう時期じゃないですか?「これだ!」となったら必至に掘り下げるというか、ある意味危険とも言えますけど。僕もプロレスとか実況とかそっちでしたから、気持ちは分かりますよ!
坂本
やっぱり、あの・・舞台の下手に陣取るわけですよ。あくまでも真ん中がスクリーンですよね。だから清野さんで例えるとリングが主であり、アナウンサーは従であるみたいなね。
だからその脇役なんだけれども、縁の下の力持ちというかね。逆に言うとその人のしゃべりがマズかったら映画がダメになるみたいな。生殺与奪を握ってる感じがゾワゾワッとしたわけですよね。
清野
じゃあでもそれをやろう!と思ってもなり方が分かんないですよね?
坂本
分からなかったんですけどもね、でもそうやってライブでやってらっしゃる。つまり興行を打っていらっしゃるわけですよ。だからまあ高校2年でちょっと私、中退しまして。映画好きとかいろんな他のことがたたりまして・・
もう「弁士をやろう!」と中2のときに受けた感動がまだそのまま持続していましたんでね。それで澤登さんのところに訪ねたら、そのころに3人くらいしかいなかったんですよね。
清野
今10人なのが、3人だったんですか?
坂本
ちょっと増えたんですよ(笑)それはあとで説明しますけれども・・。
清野
さっきの生殖能力は関係なく?(笑)
坂本
それはちょっと・・すいませんねえ本当にもう。それで澤登さんが弟子をとらないって方だったんですよ、そのころは。「もう趣味でやった方がいいよ」って言うんで、最初趣味でやっていたんですよ。サークルみたいなのがあったんですよ、活弁の。
そこにいたんですけど「やっぱりプロになりたいな」「これでおまんまが食べられないかな?」と思ってたんですよ。そしたら20歳のときに「東京キネマ倶楽部」っていうのは鶯谷にできたんですよ。そこは1年365日無声映画を上映するっていうとんでもないレストランシアターだったんです。
清野
それが当時あったわけですね?
坂本
それはもう今は営業はしてません。
清野
99年当時は。
坂本
それで365日弁士付きで無声映画をずっと上映するレストランってなると、3人しかいないんじゃ足らないわけですよ、ローテーションが。
清野
3日に1回やらなきゃいけないわけですからね。
坂本
だからオーディションで役者さんだったり声優さんだったり、いろんなそういうのに興味がある人「オーディション」っていう雑誌が当時あって、それに出て。
「坂本くん今度うちも経営に関わるから」っていうんでその澤登さんの会社から口をきいてもらってオーディションに参加して、それで合格してそれで弁士でデビューできたわけですよ。一応、形だけはプロということになって。
そのときに山崎バニラさんというね、今ドラえもんのジャイ子とかやられている彼女と同期という。
清野
そうだったんですね、じゃあたまたまそういう募集をしていたからやっぱり良かったもののってやつですね。
坂本
そうしないと、もう師匠がいないわけですから私は。つまり入門してその社会に入ったっていう証明がないわけですよ。
清野
なんとなくアナウンサーに近いような気もしますよ。僕らも何も免許も何もないですから。
坂本
でも入社が証明ですよ、それがやっぱりちゃんとした公的なところにね。でもやっぱりそういう素人ですから僕はね。そのころ、全然お客さんも正直言って入ってなかったんです当時。有名な人が出るわけじゃないしね。
400人入るんですよ、そこ。でも2人とか3人とかねお客さんが。2人は困りますよね(笑)例えばカップルで来たらね「今宵はあなた方2人の貸切りでございます」とか言ってごまかせるけど、ボサッとしたオジさんが2人バラバラで来て、すごい離れたところに西と東で座ったりしたら「どこ見りゃいいんだ!」っていうぐらいで。
清野
確かにこれはツラいですね(笑)
坂本
だんだん出されるまかないとかも、粗悪になってきてね。経営陣とかの視線が痛くなってくるわけです。スタッフとかも、だって客来なきゃ腐りますからね。それで結局1年を待たずして瓦解しましてね、そこは。
それで「どうしよう!?」とせっかく弁士でデビューしたのに、本拠地がなくなっちゃったわけですよ。
清野
いやー、プロレスっぽいなあなんか。団体が消滅するみたいな(笑)
坂本
かといって他の団体なんかないんだから。もう1団体しか(笑)
清野
そうか!1団体だから他に行けないんだ!
坂本
そうですよ!みちのくってわけには行かないわけですよ。それでしょうがないってそこで辞めちゃった人もいるけど、しょうがない自分たちでお金出してフィルムを借りたり小屋も借りてやろうっていうインディーズですよね。普通のバンドとかと同じで、もう自分で全部やる。
清野
自主制作、自主興行だ。それってそうどう活弁が、活動写真が好きじゃないとできないっすよね?
坂本
でもね、無声映画も好きでしたけど・・やっぱりどこかにアナウンサーさんとかじゃないですけど、語りに対する憧れというかそういうのもあったんじゃないですかね?
清野
それは何が芽生えだったんですか?語りとかしゃべりに対する憧れっていうのは?
坂本
それはですね、おそらくなんですけれども。子ども時代におじいちゃんが時代劇を見ていたり、あと演歌の番組とか見てますでしょ?
そうすると「にっぽんの歌」とかあういう演歌の番組とかありますと、番組の始まりのところにね。「浮世舞台の花道は表もあれば裏もある」とか来宮良子さんのあういうのとか。
時代劇でも最後に「親子のケンカを直したら、笑顔のまま○○路をあとにするのでありました」みたいなそういうナレーションみたいなのがあったりすると、なんかその心地よいものをね。そういうのを聞いたりして、こういうのを真似してしゃべったら面白かったりするわけですよ。ちょっとおじいちゃんたちがウケたりしてね。
清野
あー分かるなあ。そういうのいいですよね。刷り込みがありますよね。
坂本
「スベって転んでケガをした。痛さつらさにゃ泣かないが、人の情けに泣けました」とかなんかそういう完全に七五調が七・七・五とかそういう「ああ面白いもんだな」と思って。なんか子どもがそういうのをやるとお年寄りとか先生とかが珍しがって喜んでくれますからね。
清野
いややっぱりでも七五調って基本心地良いんですよね。日本人には。
坂本
どうやらそういうDNAに刷り込まれているんじゃないですかね?
清野
いや実況もそうなんですよ。「ツーストライク、ワンボール」みたいなやっぱりあういうのが気持ち良いんですよね。
坂本
だからもしかしたら、でも演芸よりでしたから。僕が子どものころに見たプロレスとかはやっぱり古館さんとか辻さんとか「おおーっと!」とかやっぱり七五調とはちょっと違うじゃないですか?
「なんということだ、これはまさに・・」とか。あれも面白いなと思ったんですけど。なんかそれからもっとさかのぼった昔の力道山のころとかの、あういうののビデオとかNHKのやつとかを見て。あのアナウンサーは面白いなと思って、全然違う。
清野
「力道、空手チョップ一線」みたいなね。
坂本
そうそう、「さあ対戦相手はルーテーズ」「六尺豊かな 大男 気合い十分 今まさに日本の力道山に果敢に挑戦してまいりました」とかそういうね。
清野
佐渡アナウンサーとかね、当時のね。
坂本
「大会開催前に 委員長であります大野伴睦氏より花束の贈呈です」
清野
ハハハ、よくご存じで(笑)
坂本
「芸能人を代表して森繁久弥さんが花束の贈呈であります」とかなんかあういうのが面白いなとか思って。
清野
いいですね!大好物ですよ僕も。
坂本
それで対戦する相手も何かエンタメ感しかない・・エンタメ感しかないと言っちゃ言い過ぎですけど(笑)ミイラ男の人とかね、ノートルダムとか。あのころに時代はちょっとあれかもしれませんけど。昭和のプロレスっていうのは外国人レスラーが怪しい人が多い。あういうのも面白いなと。
清野
興行ですよね、だからね。お金を取って面白いものを見せるよっていう、そこがやっぱりはじまりでしょうね。でも気持ちはよく分かりますよ。でもそれって観に来る人って、活動写真を誰が観に来るのか?
坂本
お年寄りでしたね。それは無声映画を好きで劇場に足を運んでいた当時で。そもそも明治29年に日本に活動写真、映画の原型っていうのは渡ってくるんですよね。アメリカとフランスからだいたい同時期にね。
そっから派生してきているんですけど。だからね昭和の10年代の前半くらいまでは無声映画っていうのはあるんですよ。昭和初期には「トーキー」って言って「トーキング」喋っているっていう意味で「トーキー映画」ってつまり現在の映画で発声している映画、普通の映画。
それまではサイレント時代、だから弁士が必要だったんですけど。昭和10年代にいらなくなった。ということは昭和10年代に産まれている人は無声映画を知っている人がけっこういる。だから今でも90歳くらいの方とか。
さっきおっしゃっていた杉山さんとかは絶対ご存じですよ。小っちゃいころに「なんとなく親に手を引かれて観たような気がする」とかね、「祭りの縁日の舞台で、神社でやっていたような気がする」とか「小学校の校庭で夏休みにやっていたような気がする」とか。
今の後期高齢者の方は覚えていらっしゃるんじゃないか?「オヤジが好きだった」とか「うちにアルバムがある」とか。
清野
じゃあそういう人に向けてやるとものすごい喜んでもらえますよね?
坂本
2000年に一応デビューして、あと自分でライブをやるようになったときは、下北沢ではじめてライブやったんですけど2001年に単独ライブを「坂本頼光単独ライブ」を。下北沢に明治43年生まれの方が来ましたからね、90いくつで!もう心配になっちゃってね。お引き取りいただいた方がいいんじゃないか?みたいな(笑)
清野
「お引き取り」っていろんな意味があるから・・(笑)
坂本
あっ!そうかそうかそうか・・お帰りということでね。でもそれは当然ですよね。だってその方が幼いころに見ていたような時代の映画をやるわけですから。
清野
だから昔はあれですよね?花形だったんですよね、この仕事っていうのはね。
坂本
もうね大正15年1926年ぐらいの調べで全国8,000人いたんですね。
清野
8,000人も活弁士がいたんですか!それが今は10人、もう激減ですね。
坂本
なんかもう火山が爆発したみたいな、隕石が落ちてきたんじゃないかというようなね(笑)
清野
ポンペイの街か!みたいな。
坂本
「何があったんだ!」みたいな、それは映画に音がついたってことですよ。そしたらもう用がないわけですから。しゃべる弁士も演奏する楽士もいらなくなっちゃった、リストラされちゃった・・。
清野
じゃあ海外は・・フランスとかアメリカはどうしていたんですか、無声映画の時代って?
坂本
MC的な人はいたんですけど、逐一説明するような丁寧に、そういうような人はいなかった。またね、ちょっと局地的に生まれても日本みたいに浸透しなかったんですね。
清野
じゃあ日本は活弁の先進国だったんですね?
坂本
先進国というか、もうそういうのに馴染む土壌があったんですよ。だってもう落語があって講談があって浪曲も明治になってあってね。おまけに人形浄瑠璃とかには必ず義太夫っていって語りの人が横にいて、要するにあれはナレーションなわけですよ。
つまり、何かに対して説明とかナレーションとか付けるっていう文化っていうのは大昔からあるわけですね。
清野
確かに日本人はそういうのが好きなんでしょうね。
坂本
「これなんで音がついてないんだ?」と、「音も声もついていないとこれじゃいかん!と何か付けようよ!」って。やっぱりアレンジャーなんです日本人というのはね。何かイジらないとどうしようもないんですね。
それをより良くしようと思ったんじゃないんですか?だって昔たぶん明治・大正は特にマイクがないですから。だから昔の弁士のレコードとか音源をちょっと聞くと・・
「ああー、そのときであった。中山安兵衛は叔父の危急に駆けつけんと出でや髙田馬場へ」とか頭の上から出すようなね。
清野
はいはいはい、高いところから。遠くに飛ばしたいからね、声を。
坂本
だからそうしないとマイクがないから、そういう口調に自ずとなるわけですよね。今のお年寄りが「『時は元禄14年』とかあれだろ?」って言われるんですけど。だからそういう刷り込みがあるんじゃないですか?
清野
でも当時の弁士ってめちゃめちゃ稼げたんじゃないですか?だってもういなきゃいけないし。
坂本
ピンキリでしょうけど、売れてた人は月に1,000円とかね。月に1,000円というのは昭和の初期とかですよ。そのころ大学卒のサラリーマンの初任給が20円とかですから。家賃が7円とかですから。そのときに月に1,000円ですからね。
清野
すごい高給取りですね。
坂本
だから「飲む・打つ・買う」ですよね。それでもうだから身体をすぐ悪くしちゃったりして、やっぱりけっこう交代が激しいわけですよ、栄枯盛衰が激しい。
清野
みんな無茶しちゃうっていうか・・プロレスラーみたいだな。
坂本
それでまさか映画に音声がつくなんて思ってない。この世の春だと思ってるわけですから、ずっと。でも何人かが生き残りましたね。やっぱりちゃんと芸があって、それが徳川夢声さんだったり。徳川夢声さん、このラジオ日本で宮本武蔵の読み語りを戦後にやっていらっしゃったんです。
清野
うわーすごいなあ。あのでも昔のそういう映像とかはどうやって手に入れるんですか?フィルムあっての弁士じゃないですか?
坂本
フィルムはですね・・戦争をまたいでも無事に残っていたフィルムなどを使って澤登さんたちもやっていらっしゃったわけです、我々の戦後の先輩たちも。それを我々はお金を払って借りるとか、そういう場合がありますね。
あとは最近はヤフオクですよね。骨董品で出るんですよ、たまに。それですごい競るんですけど。
清野
どれぐらいからスタートするんですか?
坂本
最初は2,000円とか3,000円ですよ。やっぱりいよいよ最後の日になると一気にバーッと高騰しましてね。
清野
残り15分くらいでアラームが来たりするんですよね。
坂本
「もう大丈夫だろう」なんて油断しているともうダメです。
清野
「高値更新」が来るんですよ。
坂本
去年ね、結局落札することはできませんでしたけどね。「限りなき前進」っていう映画があるんですよ。
清野
何年ごろの?
坂本
昭和15年だったか16年だったかちょっと忘れちゃいましたが。小津安二郎原作・内田吐夢監督っていう要は名作なんですよ、映画史的には。
トーキーで普通の映画なんですけど、あえてサイレント版にしてあるフィルムだったんです。ちょっとこれマニアックになっちゃうんで端折りますけれども。とにかく我々弁士がズズズッてよだれが垂れるようなものなんですけど。これがね、最終的に55万まで行きましてね。
清野
えーっ、そんなに上がったんですか!で、入札に参加して?
坂本
「えーっ、もう無理だわ」つって、だって果てしもないんですもの。これより上に行っちゃって、もうないんですからお金。
清野
それはもう弁士以外の人も参加しているということですね。
坂本
コレクターですよね。昔からコレクターの方が金持ちっていうのは常識ですから。でもコレクターの人の気持ちも分かるんですよ。まず欲しいというのは同じですから。またコレクターの方っていうのは大事にしますよ。
大事にして表に出さないんですよね。そうするとそのフィルムはもうないんで秘匿されちゃうと永久に日の目を見ない可能性もあるわけです。だってどなたが落としたか分からないから。でもやっぱりなんとかいろいろ欲しいでしょう、しかしなんとか私に!みたいな。
清野
弁士の方が持っていた方がいろいろな人の目に触れますからね。
坂本
こっちも仕事で使うというのはちょっと弱いところはありますけれども。必ず多くの人に見せられるように・・興奮するとロレっちゃうんですけど(笑)本当そうなんですよ。
清野
でも気持ち分かるもん、悔しいですよね・・財力で負けるというのはね。分かるわ。
(ゴング)
ああーっと、ここでゴングが鳴りました!えー時間切れのゴングが鳴りましたよ、坂本さん。
坂本
そんなにしゃべりました、私?
清野
もう30分なんですよ、本当なんですよ。皆さん言うんですけどね。
坂本
すいません。
清野
時間切れのゴングでございます、試合終了なんですよ。
坂本
なんかもうほとんどしゃべりませんでしたね、予定の内容をね。
清野
予定なんてないですよ!プロレスにそんなものは。
坂本
あっ、そうでした。すいません、これは失礼しました。
清野
えー時間切れ引き分けということで引き分けの場合はタイトルマッチはチャンピオン側の防衛ということになります。我々番組側が324回目の王座に防衛成功となりました。もうしわけございません、チャンピオンベルトをお渡しすることはできませんが、振り返ってみてどうでしたか?
坂本
いやーもうちょっとやりたいですね。
清野
じゃあちょっとこのあと軽く延長戦を。
坂本
やっちゃっていいですか?
清野
「いいんだね、やっちゃって」ってな感じでやりましょう。
(了)
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