森永卓郎が語る「だから、これから結局感性の勝負っていうのかな?」

2017/11/13

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今回は2017年7月10日放送「大竹まこと ゴールデンラジオ!」
「大竹紳士交遊録」森永卓郎さんの回
起こしたいと思います。


森永卓郎(以下、森永)
今日ちょっとニュースから離れてですね、ものすごくびっくりしたことがあったんでその話をしたいと思うんですけどね。

今月(7月)から正式に就活の解禁になって大学生が就活をやっているんですけど、事実上ですね最初の1週間ぐらいでほぼ終盤っていうか・・うちのゼミ生もみんな決まっちゃって終了なんですけど。

倉田真由美(以下、倉田)
本当はもっと前から実は始めているってことですか?

森永
3月くらいから本当は始まってます・・これ放送で言っていいのか分からないですけど。ただ1人だけ就活全くしない学生がいて、ちょっと本人の許可を取っていないんでFくんって。

このFくんがですね・・話したんです。「どうすんの?」って言ったら「就活しません」って言うから、「しなくて大丈夫なの?」って言ったら「いや僕もう働いているんです」って言うんですよ。

何?って言ったら、彼がもう2年生のころかな?映像制作の手伝いをやって、CM撮影のスタッフみたいにして働いていたんですけれども。大学4年生でその会社からスピンアウトして自分でCMを作っているって言うんです。

なんかマカオ政府から依頼を受けてCMを作ったり、1番の最新作はJTBの信州おとな旅信州っていうののホームページ上のCM動画を作っているんですよ。

本当にきれいなダイナミックな映像を作ってるんですけれども、何にびっくりしたか?っていうとですね。それを彼はたった1人でやっているんです。誰もいないんですって、だから脚本家もいなければ作家もいないしカメラマンも音声さんも照明さんも。編集者もいないと、1人で全部やっているっていうんです。

倉田
えっ!でもそれだと限界ありません?

森永
と思ったんですけれども・・彼に言わせるとスタジオでやるんだったら照明さんがいるけど、それ以外だったらロケは全部1人で出来るって言うんですよ。

私がなんで驚いたかっていうと私はそういうのの専門家ではないんですけれども。そういう現場でずっと働いて来たわけです。例えば普通のCM撮影だとスタッフって100人くらいいるんですよ。もうびっくりするくらいの数がいて。

たった15秒の映像を作るのに丸1日かけたり下手したら2日かけたりしているのが普通に怒っているのに、彼が1人でやっているのにそんなことができると私は思わなかったんですけど。なぜできるようになったかっていうと、1つは技術の進歩なんですね。

昔は例えば上空からの映像ってクレーン車を持っていってクレーンの先からカメラをつけて全景をとらえたりしていたんですけど。

大竹まこと(以下、大竹)
今はドローンですからね。


森永
ドローンでヒュッと飛ばすと1人で撮れちゃうんですよ。しかも彼が使っているバーチャルリアリティ用のカメラっていうのがあるんですね。これは360度全部同時に写しているんですよ。

だから後から自分がこの角度が欲しいっていうところを勝手に切り出してくればいいので、別にカメラを何台もいらないんですって。

それからもう1つの理由っていうのが、機材の価格っていうのが劇的に下がったんですよ。私、自分で買おうとして断念したんで覚えているんですけど。ベータカムっていう大きい肩に担ぐカメラあるじゃないですか?あれを買おうと思ったら1台1千万円くらいするんですよ。

倉田
あのテレビの方を持ってらっしゃる、あれ?

森永
そうそう。「あれだけ買ってもしょうがないよ」って言われて編集機がないと編集できないからって「編集機いくらですか?」って聞いたら数千万円って言われて、「そんなもの買えるわけねえじゃん!」って言って諦めたんです。

ところが、彼に聞くと今CMの映像に耐えられるカメラって数万円なんです。しかも編集は彼が持っているノートパソコンの上で全部できちゃう。学生で機材をバイトちょっとしたら全部揃えられるっていう時代になっちゃったっちゅうことなんです。


大竹
昨日TSUTAYAに行ったら真ん中のテーブルがあるんだけど、そのTSUTAYAが本屋と連動しているから、もう全員1人でパソコンとスマホを駆使しながら全員勉強してたら真ん中のテーブルは学生が。

森永
だからたぶんね、その我々おっちゃんおばちゃんの時代と世の中がガラッと変わってきたのは、私これ先祖返りじゃないかな?と思ってるのは何かっていうとですね・・

戦後の高度成長期に何が起こったか?っていうと、工場で働いていた職人が旋盤1丁買ってスピンアウトして独立して町工場を作ったんですよ。大田区の京浜島の町工場とかってそういうふうにして「俺は独立するぞ」って作った工場がいっぱいあるんですね。

ところが、それが高度成長が終わるとともにバタッと新規開業がなくなったんです。それで「なんでやらないんですか?」って言ったら・・

最近は腕1本で旋盤作っていいもの作るぞ!って世の中じゃなくなっちゃって、産業用ロボットだとかNC工作機械とかマシニングセンターでモノを作るようになったんだけど・・

こいつが5千万も6千万もして普通に一介の職人に買えるはずがねえじゃんって言って、みんなが組織にぶら下がる世の中になっていったわけです、80年代以降。

ところが機材の価格がドーンと下がると逆にまた個人に戻ってくるっていうのが、今ものすごい勢いで始まってるかな?と。

倉田
いやマンガの世界もちょっと機材の話と違うんですけど、発表の場がものすごく増えて全然素人でどこの出版社からも賞を取ってなくてっていう人は昔は全くデビューなんか出来なかったのが、

今ってその出版社レベルでいうとデビューにこぎつけるのには絵柄的に技術が足りてないねっていう人でも全部発表できちゃうんで。で、そんな中からすごく面白いものってあったりするんですよ。そっから大ヒットとかってけっこう生まれてるんですよね。

画力的には私たいがいヘタクソですけど、私が見ても「これはちょっと・・」っていうぐらいのものでも書籍化してそれがヒットしてたりっていうこともあるんで。もう個人単位で可能性の門扉が開いているなっていうのはすごい感じますね。

森永
マンガの世界もそうなんですけど、アニメもすごくって昔は人海戦術でセル画を描かなきゃいけなくて、あまりのコストに虫プロって手塚治虫のところも1回倒産するようなことが起こったんですけど。

今ね、最初の絵だけ描くと人形を動かすとそれに合わせて勝手にコンピュータがセル画を描いてくれるようになってきたんですよ。だから1人でできちゃうんです。

こういう世の中になってくるとね、独立開業できるんですけど。前は何が違ったか?っていうと1人でやっているときって技術とか技能とか積み重ねによっていい製品を作るっていうのが高度成長期以降だったんですけど。これ結局、感性なんですよ。

そのFくんに聞くと「お前、営業はどうしているんだ?」って言ったら彼の作品のテイストが好きなスポンサーだとか、あるいは女優さんだとか「あなたに撮ってほしい」っていう人が発注してきてくれるって。ただ、彼はすっごく安いんですね。一般的なCM制作費の10分の1以下なんですよ。

倉田
だって1人しかいないですからね。

森永
コスト安いから、でも彼に言わせると「僕は新入社員で就職した人たちと比べたら、ずっと多い年収を既に稼いでます」って。だからすっごい安いんだけど、コストもかからないからそこそこ食えるっていう状況になっていて。

だから、これから結局感性の勝負っていうのかな?そういう時代になっていくんじゃないかな?っていう気がするんです。

大竹
一時期だけどテレビのカメラの技術がすごい上がったのね。どうしたか?っていうと照明がいらなくなっちゃうっていう、今それのすごいことが1人で出来てるっていうふうに言われるんだけど。それはいろんなところにいる技術の人とか職人さんの仕事ってどうなっちゃうの?

森永
いやだからそういう地味な仕事っていうのがこれからどんどん減っていって、やっぱりみんなアーティストになるしか手がないんじゃないかなっていう・・。

大竹
だけどそれはさっき言ったようにその人の感性が素晴らしくて、そこに惚れない限りそこには行けないわけじゃない?技術職とか書類をスタンバイするのとかっていろんなことの職種ってどんどんなくなっていったらどこに就職するの?

森永
うーん、だから売れないお笑い芸人が大量発生するっていう感じじゃないですかね?

倉田
それはそれでちょっと怖いような気がしますね。

大竹
今だって大量発生してますよ、すでに(笑)

倉田
そろそろお時間になりました、森永さんありがとうございました。

(了)

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