「大竹紳士交遊録」『ダ・ヴィンチ』編集長:関口靖彦さんの回を
起こしたいと思います。
関口靖彦(「ダ・ヴィンチ」編集長:以下、関口)
よろしくお願いいたします。
光浦靖子(以下、光浦)
お願いしまーす。
大竹まこと(以下、大竹)
なんとなく声が気弱な感じだけど、そんなことないですか?
関口
あっ、そうですか?大丈夫です。
大竹
何か会社であったとか?そんなことないですか?
光浦
嫌なことでもあったんですか?
関口
特につらいことはなく・・大丈夫です。
大竹
バンド活動が上手くいかなかったり?客が来ないとか?
関口
そちらの方は相変わらず続けていますけれども・・
光浦
はい、本日は?
関口
今日はまた本のご紹介なんですけど、本屋大賞の受賞作が決まりまして。その大賞受賞作をご紹介しようかと思っていたんですけれども大賞が恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」になりまして。
光浦
直木賞も取りました。
2018年本屋大賞・第2位の森絵都「みかづき」
関口直木賞も受賞されてこれまでにこの番組でもご紹介をさせていただいていたので、第2位の作品をご紹介させていただきたいなと思いまして持って参りました。
今回、本屋大賞第2位が森絵都さんの「みかづき」という小説です。
森絵都さんはもともとは児童文学でデビューされた方で1991年にデビューされている作家さんなんですけど。だんだんご自身のキャリアを積まれ年齢も上がってくるなかで実際描かれる小説もすごく幅広い世代を描くようになってきているんですけれども。
今回の受賞作の「みかづき」はですね、親子3代にわたっての家族小説になっています。かつ、もう1個テーマというか題材が「塾」なんですね。学校教育に対しての「塾」っていうことですね。
このタイトルの「みかづき」っていうのがそもそも登場人物の1人である塾を立ち上げる女性が言っていた言葉なんですけれども。
『学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです。太陽の光を十分に吸収できない子どもたちを暗がりの中で静かに照らす月、今はまだ儚げ(はかなげ)な三日月に過ぎないけれど必ず満ちていきますわ』
っていう、まだ戦後の頃の話ですね。だからまだ塾っていうもの自体が今みたいなメジャーな存在になってなくって、じゃあ我々も「塾」っていつぐらいから始めっているって知ってる?って聞かれたら多分知らない人が大半だと思うんですけど。
そういう日本の戦後の教育史みたいなのもベースにしながら塾っていう存在を通して、そのときどきの家族とか子どもを描いていくっていう結構な大作ですけども。
光浦
分厚いですもんね。
大竹
500ページ以上あるね。
関口
そうですね、500近いですね。もう本当にどっしりしたドラマを読んだなあという手応えがボリューム的にも内容的にもある小説で本当におすすめなんですけれども。
光浦
読もう。私ね、親子3代とかそういうの好きなんですよ。安心して読めるんですよ。なんでか?っていうと死んでないから。続いているから3代、もうそれだけで安心して読めるんですよ。
大竹
なるほど、じゃあ歴史物なんかは好きなの?
光浦
歴史は・・ちょっと苦手意識がすごい。
大竹
だってあれも何代だって続くじゃん?
光浦
歴史になるとダメなんですよ!
関口
やっぱり戦後史ぐらいだとご自分の見て育ってきた風景と重なるし。
光浦
あとあれなんですよ、実在しない人の方が安心して読めるんですよ。実在しちゃうと実在した人が苦労するとさ、本当にあった苦労になっちゃうから。もう胃が痛くなっちゃうの!もう本当に!っていう・・。
大竹
なんかその今の話の内容だけど、日本の塾のちょっと前の時代の設定みたいなことを今おっしゃっていたけれども。今さっきの読んだ引用部分は今でも俺はそうなっていくというか、学校っていう存在がなんかちょっと疎ましくなってきてないかな?とは思ってるんだけど。
関口
あと、学校ってやっぱり読んでいて思うんですけど、そのときどきの政治と方針とかでコロコロ変わるんですよね。いわゆる「ゆとり教育」とかが代表的なところですけど。そのときどきで「ガーッてやれ」って言われたり、「やるな!」って言われたり。
大竹
パン屋が和菓子屋になっちゃったりな。
関口
それに対して塾っていうのは、それぞれの方針である意味安定した教育ができるっていうところはあるので、必ずしもやっぱりそういう学校ではできない教え方みたいなのはあり得るんだなっていうのは思ったりで。
太田英明アナ(以下、太田)
逆に例えば中学受験でものすごい熱心なお子さんとかはむしろ公立の小学校が月で大手の塾が太陽みたいな意識で行っている子も中にはいるかもしれない。
光浦
あの「受験太陽」だけに特化してね。
大竹
嫌だねえ、なんか。もっと大らかにバカな子が・・まあ俺もバカだけど。バカな子がたくさんいて欲しいよう、なんだかなあ・・。
関口
これ読んでいて思ったんですけど、なんかやっぱり勉強を詰め込まれるっていうだけじゃなくって。そもそも学ぶこと、知らないことを知っていくことって面白いじゃないですか?
だからなんか自分の得意にこととか知らなかったけど、これ面白いなってものを見つけられる機会っていう面もあるのかな?っていうのは思いましたね。
塾と学校の関係性から、女子の学校生活の話に
光浦
学校はやっぱ人付き合いじゃない?
関口
ああ、そうですね。クラスの中のポジションとかが決まっちゃうと逃げ出せないとかありますね。
光浦
あれを学ぶところというか・・私さ、勉強なんか屁でもなかったもん。もうとにかく人付き合いとかそれだけがずーっと悩みだったな。どうしたら怒りん坊の女子のワガママな人おるじゃん?
あれを納めるかな?みたいな・・なんか地鎮祭みたいな感じだよね。毎日、毎日。もう鬼がとにかく爆ぜないようにするにはどうするんだ!っていうさ。
太田
「お鎮まりくだせえ~」みたいな(笑)
光浦
「お鎮まりください」を考えるのが女子よ、高学年よ!本当に嫌だった!もう大変だった。
だから大人になったら「こんなに人付き合いって楽なんだ」って思った。子どもって理不尽が許されるじゃないですか?だもんで、リーダー格が「あいつ嫌い、明日無視」とかがまかり通っちゃうんですけど、大人はそんなことできないじゃないですか?
だから私(大人になって)「なんて楽なんだろう」と思って、やっぱ。
太田
あと大人はコミュニティをいくつか持っているから、1つがダメでも逃げ場があるけど子どもが学校が全部のコミュニティになっちゃいますもんね。
光浦
毎日、地鎮祭でしたよ!!「どうやっておだててワッショイして」みたいな。
大竹
光浦の時代はそうだったんだ。俺らの時代は・・まあ俺の性格とかがあるのかな?やっぱりネックは勉強で、やっぱり勉強ができないとダメでそれ以外はオールフリー、何でも良かったね。
関口
学校によっても違うんですかね?そういうところって。
光浦
まあ男子の方がカラっとしてるのかな?まだ成長が遅いから。なんだろうなあ?脳みそが成長していないけど、ハートが成長しているのが女子っていうのか・・理不尽だけど感情がいっぱいあるのが女子な感じがする。
太田
その他にも森絵都さんの本をいくつもお持ちいただいていますけれども。
30代以上には共感できる短編集「出会いなおし」
関口
あと1冊だけ追加でご紹介してもいいですか?この受賞作の後に出た今のところ森絵都さんの最新刊で「出会いなおし」っていう短編集なんですけど。
帯に「年を重ねるということは同じ相手に何回も『出会いなおす』ということだ」っていう。
光浦
おお、ブラボー!
関口
さっき、続いていくっていうことをおっしゃってましたけど。やっぱり若いときって別れ別れになるとか別離っていうのがそこでそれっきりみたいな感じがしますけど。
実際30年40年50年って生きてくると1度離れた人とどこかでまた交差したり、それって別に恋愛だけじゃなくって仕事の上とかでも20年前けっこうぶつかりあったけど、久しぶりに会ってみたらみたいなことありますよね?
光浦
今まさに地鎮祭の鬼とかが親友になってます(笑)
「お前!小学校のとき、どんだけうちらが苦労してお前のご機嫌を取るのに!」っていう・・忘れてるしね、本人も。かといって今は全然仲が良いし、普通に遊ぶし。
大竹
俺はあの風間杜夫ね。一緒の劇団を組んで一緒にやってたんだけど、やっぱり風間だけが先に売れていくわけよ。
俺らは居残り組でコメディアンになるわけよ。向こうにいった連中の間の噂では「あいつらビルの屋上でコントやってるらしいぞ」みたいな話になるわけだ。それでしばらく疎遠になるわけよ。
もうずーっと一緒だった10年ぐらい同じ家に住んで一緒で。マヨネーズご飯かっ食らっていたのが、その後疎遠になるわけよ。
それで何十年経つわけ、それでつい1年ぐらい前に俺が朗読したものと風間が朗読したのと同じ会社だったのよ。
それが縁で宴が設けられて、そっから今また風間とめっちゃくちゃ仲良くなって。
光浦
親友みたいに。「出会いなおし」だ!ある、ある、ある。
関口
いやなんかこれ本当にそういうたぶん10代の人が読んでもあまりピンと来ないと思うんですけど。30代40代以上の方が読むと、すごい響くと思います。
大竹
もう「出会いなおし」って聞いて「ああっ、そうか!」って思ったもん。
関口
これ6編入っている短編集なんですけど、だから登場人物は全部違うんですけど。やっぱり分かれてまた出会ってっていう「じゃあ、また」って言える感じっていうのがどれもあってですね。
大竹
俺も書いてこの中に入れとくよ、じゃあ。
光浦
「風間と俺」
大竹
エピソードを1つ足して。
関口
なんか年を取っていくことを励まされるようなすごく良い本です。
光浦
ああ、素敵!
大竹
そうだよな、俺だってもう67歳だもんな。こんなときにまた「出会いなおし」なんて思わなかったもんね。
関口
ぜひ、じゃあ読んでみていただいて。
光浦
じゃあ私、「みかづき」の方を。あれもうお時間?お時間来てしまいました。
(了)